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「第九を聴く」1 Introduction
次の演奏会は、古典派最後の巨匠ベートーヴェンの交響曲第九番。
「エロイカを聴く」「タコ5を聴く」に引続いて、これから12月の演奏会までの間に、
手持ちの第九の演奏を紹介していきたいと思います。
さて、今回沼響の使用楽譜はベーレンライター版ということなので、
ここで作曲から今までの第九の作曲から出版までの経過を簡単に整理しておきます。
 1824年 2月?   初稿、自筆スコアが完成
       3月    写譜師ペーター・グレーザーが筆写した浄書スコアが完成、
             ベートーヴェンが多くの加筆修正を加える
       4月    初演用手書きパート譜が完成
       5月7日  ウィーン初演
 1825年 1月    写譜師らが完成させた初版用原本をショット社に送る。
             (作曲者が目を通す)
       5月23日 アーヘン初演(使用スコアはアーヘン用に筆写されたもの)
 1826年 6月 ショット社の初版第1刷刷り上がる
             (作曲者は検閲せず)
       9月 プロイセン王ウイルヘルム?V世献呈用の浄書スコアが完成
          作曲者は検閲し、手を加えた。
 1827年 3月26日 ベートーヴェン没
       年末    ショット社からメトロノーム数字入り初版第2刷が出版
 1830年       ワーグナーによる1台ピアノ編曲版完成
 1852年       リストによる2台ピアノ編曲版、ショット社より出版
 1864年       ブライトコプフ社から全集版 第九 出版
 1865年       リストによる1台ピアノ編曲版、ブライトコプフ社より出版
 1996年       ジョナサン・デル・マーによる校訂版ベーレンライター社
             より出版。
    (金子健志著 「こだわり派のための名曲徹底分析 ベートーヴェンの第9」を
     参考にしました。)
いままでの多くの指揮者が使用していた楽譜は、1860年代にブライトコプフ社から出版され旧全集版を元にした慣用版です。
しかし、当時の編纂方針が客観的、学問的な実証を経た上での出版でなく、旧全集出版の出版後も、演奏家本位による一方的な細部の修正が加えられています。通常使用されているブライトコプフの慣用版は旧全集初版とも細部が異なっているようで、オリジナルとはかなり違っているのが現実です。
近年旧全集版に多くの問題が指摘されるようになり、自筆譜や筆写譜などや当時のさまざまな資料による研究成果をもとに新しい楽譜が作られるようになりました。
しかし現実は、複数の学者や研究機関がそれぞれ別個に新校訂版を出すことになってしまっています。交響曲は現在以下の出版社の校訂が進んでいます。

・ ヘンレ社;  
          ミュンヘンの「ベートーヴェン・アルヒーフ」による。
          第1番、第2番が出版 
         (1995年 アルミン・ラープ校訂、以下人名は校訂者)
・ ペータース社;
          ライプツィヒのペータース社
          第5番(1977年 ペーター・ギュルケ)   
          第4番(1989年 ペーター・ハウシルト)
          第6番(1985年、ペーター・ハウシルト1989年訂正版)
           全集は既に完成しているようです。
           これらとは別に指揮者のイーゴリ・マルケヴィッチ校訂による
           マルケヴィッチ版も出版(1983年) 
・ ベーレンライター社;
          ジョナサン・デル・マーによる。2000年に全集完結
・ ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社:
          第5番(クライヴ・ブラウン)
          第7番(1994年 ペーター・ハウシルト)
このほかに、編曲版としてマーラーによるマーラー版、指揮者の近衛秀麿による
近衛版があります。(未出版ですがCDは出ています)

現在国内のカタログには100種近くの第九の演奏が載っています。今まで録音された第9はおそらく200種は超えるでしょう。その多くは慣用版による演奏ですが、最近は最新の研究成果ふまえたオリジナル楽器による演奏も登場し、その影響を受けたモダン楽器による演奏もあるという複雑な状況となっています。
ベートーヴェンの交響曲第9番は、演奏時間一時間を越え、4人の独唱者と合唱まで含むクラシック音楽の最大傑作です。作曲の成立から複雑な版の問題まで言及するには、私の能力を超えてしまっていますが、これからできるだけ多くの演奏を紹介していきたいと思います
(2001.06.02)
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