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「第九を聴く」26 オーストリアの指揮者たち カラヤン(2)
カラヤンの第九その2回目です。

  ベルリンフィル、ウィーン楽友協会合唱団、
 S:ヤノヴィッツ、A:レッスル=マイダン、T:クメント、Br:ベリー
  (1962年 10月)リハーサル付き

カラヤン&ベルリンフィルの第1回全集録音。この第九にはかなり長時間にわたるリハーサル録音が残されていて、国内盤と外盤の非買品として世に出たことがあります。国内盤は第1、第3楽章と第4楽章のそれぞれ一部、外盤は、第4楽章のみですが国内盤と収録個所が違います。今回はこのリハーサル盤を中心に聴いてみました。
この全集を録音する際にカラヤンはトスカニーニの録音を団員に聴かせたというエピソードが伝わっていますが真偽のほどはわかりません。ただ過去の伝統様式から離れて、インテンポで楽譜に忠実な演奏を目指しているの点で、トスカニーニと共通していると思います。事実第4楽章のテンポ運びなどは、トスカニーニとほとんど同じと言って良いほど似ていました。ただし出てくる音楽は、レガートを多用したカラヤン独自の世界です。リハーサルでも、常に美しく美しくといったことを協調しています。全曲を聴き通した時点では見事な演奏だと思ったものの、正直なところこの演奏の良さはよく判りませんでした。
しかし丁寧なリハーサルを聴いているうちに、この演奏の磨きぬかれた美しさに次第に惹かれてしまいました。時折弦楽器と管楽器を別々に分奏させるのですが、歓喜の主題をチェロのみで延々と弾かせるところなど、その洗練された美しさに思わず聞きほれてしまいました。このピアニシモの美しさは、カラヤン独自の麻薬にも似た魅力があります。独唱はソプラノのヤノヴィッツが圧倒的。合唱も悪くありません。カラヤンの残された第九の録音の中では、この曲のスタンダードといって良い名演です。

 ベルリンフィル、ウィーン楽友協会合唱団、
 S:トモワ=シントワ、A:バルツァ、T:シュライヤー、Bs:ファン・ダム
  (1976年11月 1977年 1月 2月)
カラヤン&ベルリンフィル第2回目の、このコンビ絶頂期の全集録音。
この録音が初めて発売された当時に非常に評判になり、各音楽雑誌が揃って特集を組んだのをよく覚えています。旧全集に比べてより緻密になったアンサンブルが聞き物、譜面には極めて忠実であるものの、録音や管楽器奏者の人数でバランスをとっているようです。事実楽器によっては不自然に協調されていて、おそらく実演ではありえないようなバランスで聞こえる個所がありました。独唱者は相変わらず最高のメンバーですが、オケの完成度がより上がった分、合唱のアンサンブルの脆さが浮き上がってしまいました。

  ベルリンフィル、ウィーン楽友協会合唱団、
  S:ペリー、A:バルツァ、T:コウル、Br:ファン・ダム、
    (1983年 9月 )
カラヤン5度目のベートーヴェン交響曲全集中の1枚。カラヤンにとって最後の第九となりました。オケを極限まで磨きぬいた現代演奏技術の極地ともいえる演奏。
ダイナミックレンジが広くスケールの大きな演奏で、現代的なスタイルの演奏としてはある種の到達点だと思います。第1楽章のクライマックスなど、凄まじい盛り上がりです。
ただ既に優れた第九の録音を残しているカラヤンにとって、この再録音はいかなる存在価値があるのでしょうか。私には疑問です。
(2001.12.02)
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