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「第九を聴く」37 チェコの指揮者クーベリック
「ラファエル・クーベリック(1914〜1996)」

チェコの作曲家にして指揮者クーベリックは、チェコフィルの首席指揮者、シカゴ響の音楽監督、バイエルン放送響の首席指揮者を歴任。
1984年に引退を表明するもチェコの民主化に心を動かされ、1990年プラハの春音楽祭において42年ぶりにチェコフィルの指揮台に立ち、スメタナの「わが祖国」全曲の圧倒的な演奏を聴かせました。
クーベリックは、ドヴォルザークやスメタナといったお国物のみならず、ヘンデルから現代作品までの幅広いレパートリーを持ち、ベートーヴェンやマーラー、ブラームス、シューマンなどの交響曲全集も残しています。
特にベートーヴェンはウィーンフィルをはじめとした世界中の9つの主要な楽団を振り分けた全集として、大変評判となりました。
クーベリックの第九は以下の3つの録音があります。

・ニューフィルハーモニア管弦楽団    1974年 1月 ライヴ録音
・バイエルン放送交響楽団        1975年 1月 スタジオ録音
・バイエルン放送交響楽団        1982年 5月 ライヴ録音


・ニューフィルハーモニア管弦楽団、合唱団
S)マーガレット・プライス  A)イヴォンヌ・ミントン
T)ホルヴェーグ       Bs)バレリー
(1974年 1月14日 ロンドン、ロイヤル・フェスティバルホール ライヴ録音)
オットー・クレンペラー追悼コンサートにおけるライヴ録音。BBC放送音源のステレオテープからのCD化です。クーベリックは世界中の主要なオーケストラの大部分に客演していますが、ニューフィルハーモニア管(フィルハーモニア管)との録音は、モノラル期に数点あるだけで、70年代の録音は、比較的珍しいと思います。

ゆったりとした自然体の音楽。第2楽章ののびやかな表情付けが印象に残りました。
晩年の凄味のあるスケール感はまだ感じられませんが、他流試合のオケを充分に鳴らした巨匠の演奏です。ただ第3楽章ではクーベリックの遅いテンポに、オケが十分に反応していけない部分もあり、多少緊張感が薄れる部分もありました。ニューフィルハーモニア管は晩年のクレンペラーの超絶的なスローテンポに慣れていてはずなので、これはちょっと意外でした。響きが拡散していて芯のない録音に理由があるのかもしれません。
第4楽章は、大編成の合唱の、気合の入った歌唱で熱気のある演奏となりました。
クーベリックはある時期から左にベースとチェロを配し、ヴァイオリンを対向させる古い配置で演奏を行っていましたが、この録音は通常配置の演奏です。

・バイエルン放送交響楽団、合唱団
S)ヘレン・ドーナト  A)テレサ・ベルガンサ
T)オックマン       Bs)トーマス・スチュワート
(1975年 1月 ミュンヘン、ヘラクレスザール スタジオ録音)
9つの楽団を振り分けて完成させたベートーヴェン交響曲全集の1枚。
楽譜に書かれていることをきっちり正確に音化した、この曲のスタンダードと言って良い演奏です。
遅いテンポの中にしっかりと歩む確かさを感じさせる第1楽章では、二つのヴァイオリン群が左右に呼応する対向配置の立体感覚が見事な効果を上げていました。
じっくりと美しく歌い上げた第3楽章がこの演奏の最大の見せ場だと思いますが、
第4楽章になると整いすぎて、音楽の勢いが削がれているような印象です。
確かな造型感覚に裏打ちされた優れた演奏ですが、全体に幾分冷めていて、クーベリックならばもっと熱い優れた演奏ができるのでは?などと思えてしまいました。
なお楽譜の改変は、第1楽章のヴァイオリンオクターヴ上げもなくごく常識的なもの。第4楽章アンダンテ・マエストーソのトランペット部分の補筆と曲の最後の音でピッコロはオクターヴ上げて吹かせていました。

・バイエルン放送交響楽団、合唱団
S)ヘレン・ドーナト  A)ファスベンダー
T)ローベンタール       Bs)ゾーティン
(1980年 5月 ミュンヘン、ヘラクレスザール ライヴ録音)
奇を衒わない大人の風格漂う名演。スタジオ録音で見せた整然とした緻密さに余裕と
スケールの大きさが加わり、ライヴのクーベリックならではの熱っぽさが感じられます。
しなやかなリズムが心地よく、絶妙な間合いを見せる第2楽章。早めのテンポでぐいぐいとつき進む第4楽章歓喜の主題の盛り上がり、熱のこもった気合の入った歌唱を聞かせる独唱陣と合唱も見事な、大きな広がりを持った素晴らしい演奏でした。
録音は、残響の多いヘラクレスザールでのライヴ録音のため細部の明瞭度を欠く部分もありますが、合唱の独特の熱気はうまく捉えていました。
(2003.10.16)
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