その17 / 東欧の指揮者たち(ポーランド編)
ロヴィツキとスクロヴァチェフスキー
今回からしばらく東欧の指揮者たち、第1回はポーランドの二人の指揮者です。

ヴィトルド・ロヴィツキ(1914〜1989)

ロシア領のタガンロフ生まれ、指揮をヒンデミットに師事、ポーランド放送響を創設、 ワルシャワ国立フィルの総監督になるなど、戦後ポーランド音楽界の重鎮。
ロヴィツキといえば、「ワルシャワの秋現代音楽祭」の主催者として ペンデレツキやルトスワスキといった作曲家の紹介者としての印象があります。 録音も、かつてはドヴォルザークの交響曲全集や超個性的な「展覧会の絵」などかなりの数が出ていましたが、大部分が廃盤となり次第に忘れられつつある存在。
ロヴィツキはショスタコーヴィッチを得意とし、第五番はワルシャワ国立フィルとのものとロンドン響との2種類の録音が残っています。 1966年にワルシャワ国立響と来日した際も演奏し、先日NHK教育テレビ番組 「20世紀の名演奏」でも第4楽章の始めの部分が紹介されました。 ワルシャワ国立フィルとの演奏は、この曲の悲劇性を強調した演奏でした。 鳴らないオケの響き(楽器が良くない?)のためなのか、鄙びた感じです。 今にも止まりそうな第3楽章、ritを多用した第2楽章など、とても一筋縄ではいかない演奏ですが、各楽器のバランス感覚がすぐれているために、聴いていて嫌味を感じさせません。NHKテレビの演奏での来日公演では映像の威力もあり、トム・ハンクスを細面にしたようなロヴィツキの指揮もキビキビとしていて実に整然としていて緊張感に溢れた名演でした。 一方のロンドン響の再録音は、ロヴィツキの意図を汲んだオケのうまさもあって充実した名演となりました。基本路線は旧盤と大きな差はありませんが、第4楽章の再現部が通常の倍近いテンポには驚かされました。

スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー(1923〜)

最近N響の定期にも登場し、ザールブリュッケン放送管を振ったブルックナー交響曲全集 の名演で人気上昇中のスクロヴァチェフスキーは、あまりにも長い名前のためにミスターSと呼ばれています。 1960年からミネアポリス響(現ミネソタ管)、84年からイギリスのハレ管の音楽監督。 ミネソタ響とのラヴェルの管弦楽曲全集やヘンデルなどはモダンでスカっとした名演でした。 録音はミネアポリス響とハレ管との2種の録音があります。 ミネアポリス響との演奏は全体に極めて早いテンポのドライな演奏。 まるでショスタコーヴィチの干し物。 あちらこちらでテンポを揺り動かした一癖もニ癖も有る演奏ですが、今一つ指揮者の意図がオケに徹底していない感じです。 一方のハレ管の演奏は一転して遅いテンポの演奏でドロドロとした不気味さでは随一。 しかし作品の本質を冷静な目で見据えた一点の曇りのない明晰な演奏だと思います。 第1楽章でスネアの連打に乗ってトランペットがミリタリー調の節を吹き鳴らす ポコソステヌートの繰り返し部分ではトランペットを休ませて木管だけで演奏させるなど随所にアッと驚く解釈があります。曲想が変転する直前の大きなルバートなども嫌味になる寸前でうまく決めています。 とにかく個性的な点ではダントツの二人の演奏ですが、いずれも説得力のある演奏だと思います。

(2001.5.7)

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