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「展覧会の絵」を聴く17・・・クリュイタンスとヴァンデルノート
「アンドレ・クリュイタンス(1905〜1967)」
パリ音楽院管弦楽団最後の音楽監督となったベルギーの名指揮者クリュイタンスには、
パリ音楽院管を振った録音があります。
今回はこの録音と先日BSで放送されたフランス国立放送管弦楽団との演奏を聴いてみました。

・パリ音楽院管弦楽団(1950年代)
上品で都会的な「展覧会の絵」、ロシア的な土臭さとは最も対極にある演奏です。
随所に聞かれる粋で洒落た表現はパリ音楽院管の色彩的な響きも影響しているようです。
演奏としては、即興性を排した、細部まで計算され尽くした印象です。
数ある演奏の中で最も遅いテンポの「ヴィドロ」、「殻をつけた雛鳥の踊り」は極めて早いなど、緩急の差が大きな演奏ですが、テンポの移行がごく自然なので、唐突な印象は受けませんでした。「ババヤーガの小屋」から「キエフの大門」にかけて、計算された細かなテンポの動きに合わせ、音量の微妙な変化を関連付けながら次第にクライマックスを築く場面など、さすがの貫禄。

・ フランス国立放送管弦楽団(1960年)
NHK BS2で放送された映像。フランス国立放送に保存されていた聴衆無しの放送スタジオでの収録です。
曲の解釈はパリ音楽院管盤とほとんど同じです。ここでもパリ風のお洒落で粋なラヴェルの「展覧会の絵」。フランスを代表するオケの違いと、クリュイタンスの細かで表情豊かな指揮ぶりが見ものです。
映像を見る限り、オケのメンバーは老齢の奏者が多く、アンサンブルの精度は完璧とは言えません。しかしここで目にする事ができるフルートのデフュレーヌをはじめとした、古き良き時代のフランス管楽器の伝統を伝える最後の世代の名奏者たち。彼らの演奏ぶりを実際に目にすることができる映像として、非常に貴重だと思います。ここで聴かれるフレンチスタイルの細身のバソンや、小型のチューバなど、実に独特なものです。

特にこのチューバはC管の楽器で、ラヴェルはこの楽器の使用を前提に「展覧会の絵」を
作曲しました。このC管のフレンチチューバがフランスのオケで主に使用されたのは、
60年頃までだそうです。この映像では、全曲をこのフレンチチューバ1本でまかなっていますが、今では大型のチューバとユーフォニウムを、二人の奏者が分担するのが普通と
なってしまいました。

サックスはダニエル・デファイエ。

この時の放送では、1964年に収録されたポーランドの名指揮者パウル・クレツキの
「カタコンブ」のリハーサルがおまけとして放送されましたが、オケのメンバーと楽器ががらりと変っていたのには驚きました。チューバはチェコのオケが使うような大型の楽器で、
既にC管の6本ピストンのチューバは使用されていません。
トロンボーンも細身の楽器から大型の楽器へ変っていました。
僅か4年の間に急速な世代交代があったようです。

「アンドレ・ヴァンデルノート(1927〜1994)」
ブリュッセル生まれのヴァンデルノートは、1951年のブサンゾン指揮者コンクールに優勝、
以後華々しい活躍を続け、当時はマゼールと並んで新世代の指揮者のホープとして大きな期待を集めました。が、60年以後録音が全く絶えてしまい、その消息も定かでない状態になってしまいました。若い頃に録音されたモーツァルトの後期交響曲集や数々の伴奏録音、ベルリンフィルを振ったベートーヴェンなどの若々しく爽やかな演奏の数々には、才能の閃きを感じさせる演奏が数多くありました。

数年前ヴァンデルノートの90年前後の放送録音がまとめて発売され、この時の解説情報から、ヴァンデルノートが94年に亡くなったことと、60年代以降の指揮活動がベルギー国内に限定されたものであることがわかりました。この放送録音を私は大きな期待を持って購入したのですが、聴いた時の大きな失望は今でも忘れられません。
明らかに練習不足から来るアンサンブルの乱れ、楽器の飛び出し、テンポを恣意的に動かしたなんともしまりに欠ける演奏の数々、晩年のヴァンデルノートは円熟とは程遠く、すっかりニ流の指揮者となっていました。
今回は、ヴァンデルノートが華々しい活躍をおこなっていたころの演奏で、パリ音楽院管を振った演奏を聴いてみました。

・パリ音楽院管弦楽団(1958年ころ)
ヴァンデルノートの「展覧会の絵」は、60年ころにコマンドレーベルから発売されたもので、映画のサウンドトラックの技術を応用した35ミリマグネティックフィルムを使った鮮明な録音が当時は評判になりましたが、この録音は細部の明瞭度に欠け、ダイナミックレンジもさほどでもなく、ごく普通の録音です。

オケはクリュイタンスと同じパリ音楽院管、ここでもオケの華やかな音色は魅力的です。
冒頭の「プロムナード」の颯爽とした開始など、大きな期待を抱かせますが、しだいに
大きく揺れる奇を衒った恣意的なテンポ設定が、なんともダサイ演奏に思えてきました。
クリュイタンスと比べると、あまりに大きな指揮者の格の差を感じてしまいます。
オケの華やかな響きに依存しているかのような演奏で、管楽器強調型のユニークなバランス、「キエフの大門」はほとんど金管絶叫の吹奏楽ような演奏でした。
(2002.03.23)
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