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「展覧会の絵」を聴く33・・・クーベリックとアンチェル
今回は、チェコの名指揮者、クーベリックとアンチェルの演奏です。

「ラファエル・クーベリック(1914〜1996)」
大ヴァイオリニストヤン・クーベリックを父に持つクーベリックは、恵まれた音楽環境の中で才能を伸ばし、1941年に27才の若さでチェコフィルの首席指揮者となりますが、1948年チェコの共産主義化を嫌い西側に移住。その後シカゴ響の音楽監督、バイエルン放送響の首席指揮者を歴任、1984年に引退を表明するも、チェコの民主化に心を動かされ、1990年プラハの春音楽祭において、42年ぶりにチェコフィルの指揮台に立ち、スメタナの「わが祖国」全曲の圧倒的な演奏を聴かせました。

・ シカゴ交響楽団
 (1951年 4月27日 スタジオ録音)
若き日のクーベリックが、シカゴ響の音楽監督時代にマイク1本のワンポイントマイクによる優秀録音で有名だったアメリカのマイナーレーベル、マーキュリーのオリンピアンシリーズに残した1枚。現在聞いてもモノラルながら驚異的な優秀録音です。
演奏は颯爽としたテンポで全曲を通した演奏。「展覧会の絵」の録音を数多く残しているシカゴ響のおそらくこの曲最初の録音で、クーベリックのシカゴ響時代の代表的な録音とされるものです。早いだけではなく、コケティッシュな「テユイリー」や「卵の殻を被った雛鳥の踊り」など、若いながら随所に神経を張り巡らせた演奏。
重苦しさとは無縁の行進曲調の「ヴィドロ」、豪快にオーケストラをドライヴした「ババヤーガの小屋」など、聴いた後に爽やかな後味の残る演奏でした。

・ バイエルン放送交響楽団
(1970年代  ライヴ録音)
クーベリックがバイエルン放送響音楽監督時代の海賊盤ライヴ。
大きな広がりのある巨匠の音楽。テンポ運びは、20年前のシカゴ響との録音とほとんど変りませんが、各曲毎の細部の描き分けが緻密となり「テユイリー」の中間部の儚く触れるとこわれてしまうようなデリケートさは絶品。スタジオ録音では幾分まとまりすぎる傾向のあるクーベリックですが、ライヴでは外面的な効果を狙う熱気も感じられ、この演奏も燃焼度の高い演奏となりました。


「カレル・アンチェル(1908〜1973)」
第2次世界大戦中家族ぐるみナチスの収容所に送られ、家族全てを失ったチェコの名指揮者アンチェルは、1950年からチェコフィルの常任指揮者に就任し、戦争の影響で壊滅的な打撃を受けたこの名門オケを立て直しました。
しかし1968年民主化の波に乗っていたチェコに旧ソ連が侵攻、当時アメリカに単身客演中だったアンチェルは、そのままアメリカにとどまり、その後トロント響の音楽監督に迎えられました。
ムラヴィンスキーに「アンチェルがいるから新世界は振らない」とまで言わせたほど、ドヴォルザークやスメタナの演奏には、絶対的な強みをみせましたが、他の作曲家の作品も、緊張感溢れた密度の濃い演奏を聞かせ、残された録音のほとんどが高水準な演奏ばかりです。

・チェコフィル
 (1964年 11月12日 パリ ライヴ録音)
アンチェル&チェコフィルの世界楽旅時にフランス国立放送が収録したライヴ録音。
ストレートな解釈の中にも変幻自在の柔軟さを見せた演奏。旅の疲れからか、名手揃いのチェコフィルにも、アンチェルの棒の変化に付いて行けず乱れる部分もあります。
しかし、幾分暗めで太いオーケストラの響きは、なかなか魅力的で、「キエフの大門」では、終結部でぐっとテンポを落としシンバルのトレモロを追加しながら、華やかさを演出していました。

・チェコフィル
 (1969年  スタジオ録音)
アンチェルが亡命した翌年にチェコを訪問したときに録音された1枚。
祝祭的な1964年盤とはがらりと変って、厳しさの中に暖かさと慈愛を感じさせる演奏。アンチェルの高潔な人格のなせる技なのでしょうか、チェコフィルも懸命の演奏を聴かせます。奥行きの有るチェコフィルの響きを生かしながら、簡潔にして直裁なアンチェルの解釈の光る名演。
(2002.05.20)
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