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「ローマの松」を聴く3イタリアの指揮者・・・トスカニーニ
さて、今回から個別の演奏について紹介していきます。
第1回はイタリアの大指揮者トスカニーニ(1867~1957)の演奏。
トスカニーニはレスピーギと深い親交があり、トスカニーニがニューヨークフィルの音楽監督時代、病気のためしばらく指揮台を離れていた時に、レスピーギが代わりにニューヨークフィルの演奏会に出演したほどです。
「ローマの三部作」はトスカニーニの優れた演奏によって現在のように有名になりました。第1作の「ローマの泉」の初演はグアルデルリでしたが初演当時の評判は芳しくなく、トスカニーニが再演してから認められるようになり、「ローマの松」は1924年にモリナーリの指揮により初演されましたが、1926年にはトスカニーニがアメリカ初演をおこない、その後20回以上演奏しています。なお第3作「ローマの祭」はトスカニーニが初演しました。

トスカニーニの「ローマの松」の録音は、現在以下の4種類の存在が確認されています。
・ ニューヨークフィルハーモニック (1945年1月13日演奏会録音)
・ NBC交響楽団(1953年3月14日 放送用録音)
・ NBC交響楽団(1953年3月17日 スタジオ録音)
・ NBC交響楽団(1953年3月22日テレビ放送用公開録画)
なおRCAによるNBC交響楽団のスタジオ録音は、客席をいれた公開録音のかたちでおこなわれました。今回は1945年のニューヨークフィルのライヴ、有名な1953年スタジオ録音盤とトスカニーニ最後のテレビ出演となった1953年3月22日の演奏を聴いてみました。

・ ニューヨークフィルハーモニック
 (1945年1月13日 カーネギーホール)
トスカニーニがニューヨークフィル音楽監督就任時のお披露目コンサートのプログラムをそのまま再現したガラコンサートの模様です。
戦時下とはいえ、そろそろ戦争も終わりに近づき、なんとなく祝祭的な気分に包まれたコンサートの実況ライヴ。このコンサートは、
  交響曲101番「時計」(ハイドン)
  交響詩「ローマの松」(レスピーギ)
  楽劇「ジークフリート」から“ジークフリートの葬送行進曲”
  「トゥオレラの白鳥」(シベリウス)
  歌劇「オイリアンテ」序曲(ウェーバー)
といった今ではほとんど考えられないような雑多な内容ですが、いずれもトスカニーニが生涯にわたって得意とした曲ばかりです。
 
演奏は、テンポの緩急の差がNBC響との録音より大きく、特に「アッピア街道の松」は異様なほどの速さです。オケにライヴならではのアンサンブルの乱れはあるものの、オケと指揮者の一体感という点では、後のNBC響との録音を凌ぐ発熱の名演です。
中でも「アッピア街道の松」の迫力は尋常でなく、テンポを煽りに煽ってテインパニとドラがひた押しに押してくるクレッシェンドには凄まじいものがあります。
「カタコンブの松」の中間部、極めて遅いテンポをとる中、弦楽器にすすり泣きのようなヴィヴラートをかけ大きな盛り上がりを見せるのは、戦争の犠牲者への哀歌なのでしょうか。

・ NBC交響楽団
(1953年3月17日 カーネギーホール)
3月14日の放送録音の出来に満足したマエストロが、その3日後にRCAのために行った録音。ニューヨークフィルほどの祝祭的な熱狂ぶりはありませんが、硬質で芯の有るかっちりとしたトスカニーニ独特の厳しい演奏です。無駄な音は一切存在せず、ヴァイオリンのさりげない一音が絶妙な意味合いを持って響くところなど実に見事なもの。
実は始めてこの演奏を聞いた時は、世評の高い「アッピア街道の松」で、トランペットのルバートが妙に耳についてあまり良いとは思いませんでした。正直なところこの印象は現在も変りませんが、始めの3曲は他に比肩できないほどの完璧な出来だと思います。

この録音は、発売以来さまざまな形で発売されましたが、今回はモノラルLPとモノラルCD、そして電気的にステレオ化されたLPで聴いてみました。この種のモノラルのステレオ化はフルトヴェングラーの録音をはじめとして、ステレオ初期からさまざまな試みがありました。しかし大概は、音の焦点がぼやけ、ダイナミックレンジも狭い失敗作となっています。今回聴いたものは、もともとの録音がモノラルながら優秀ということもありますが、当時若手エンジニアのジャック・ソーサーが莫大な費用と手間をかけて完成させたもので、通常のステレオ録音と変わりないほどに自然で、この種のステレオ化ではかなり成功しています。RCAによる擬似ステレオ化は、結局あまりにも手間がかかりすぎるということで、「ローマの松」、「ローマの泉」、「展覧会の絵」、「新世界より」の都合LP3枚分で打ち切られてしまいました。なかでも「ジャニコロの松」は広がりのある実に美しい効果をあげていました。

・ NBC交響楽団
(1953年3月22日 NBC 8Hスタジオ)
トスカニーニが出演した10本のテレビ番組中最後の収録となった貴重なもの。
この日は前半に「運命」も演奏され、こちらの録音はLP化されました。
きちっとした無駄のない棒の下、筋肉質で燃焼度の高い素晴らしい演奏を展開しています。歌心溢れる「ジャニコロの松」の小鳥の録音も鮮明に会場内に響いていました。中でも圧巻は「アッピア街道の松」で、録音では今一つ抵抗感を感じたトランペットもトスカニーニの棒を見ながら聞くと実に自然。しだいにテンポをじわりと上げて行き、クライマックスではトスカニーニが大きな口をあけて歌いながらオケを引っ張く様は圧倒的で、まさにトスカニーニ将軍の率いる精鋭軍団の破竹の進撃。
映像で見るトスカニーニは当時84才、さすがに老いが感じられ「ジャニコロの松」の終結部で、一瞬の棒の迷いがハープのアンサンブルの乱れを誘っていますが、ライオンのような風貌と鋭い眼光は健在。オケはヴァイオリンが左右に別れた対抗配置で、ベースとチェロを左に配置した19世紀型の古い配置でバンダは使用していないようでした。
(2002.11.03)
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