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「ローマの松」を聴く9 フランス系の指揮者・・・ミュンシュ、アンセルメとデユトア
今回はフランス系の指揮者3人の「ローマの松」

「シャルル・ミュンシュ(1891~1968)」
20世紀を代表するフランスの大指揮者。ストラスブール生まれ、父は音楽院の教授といった音楽家一家でシュヴァイツァーとも親戚筋。ヴァイオリニストとして出発し、フルトヴェングラー時代のライプツィヒゲヴァントハウス管のコンサートマスター。後に指揮者に転向し、パリ音楽院管常任指揮者、ボストン響首席指揮者を歴任し、1967年創設まもないパリ管の初代音楽監督。

・ ニューフィルハーモニア管弦楽団
(1966年 スタジオ録音)
大指揮者ミュンシュがボストン響を辞し、フリーとして活動していた頃の晩年の録音。
骨太で明快な音楽、あっけらかんとしすぎて豪快ですが楽天的な演奏でした。大味なフェイズ4システムの録音も薄い響きで、デリカシーに欠ける部分を助長しています。
全体に遅いテンポでドロドロとした、「カタコンブの松」はまるで止まってしまうかのような不気味さです。吹き上げるような金管爆裂状態の「アッピア街道の松」も、どこか空しく響きます。もともと練習嫌いで本番に燃えるミュンシュの悪い面が出て、オケのアンサンブルも大雑把となってしまいました。

「シャルル・デユトア(1936~)」
N響の常任指揮者としてお馴染みのデユトアは、1978年から音楽監督をつとめるモントリオール響を振った録音があります。

・ モントリオール交響楽団
(1982年 6月 モントリオール、聖ウスタシュ教会 スタジオ録音)
こちらも楽天的な「ローマの松」、細かな部分まで行き届きオケを過不足なく鳴らし、バランスも完璧な見事な演奏だと思いますが、逆に作品の表面的な部分が白日のもとに曝されている気配もあります。
「ボルゲーゼ荘の松」のリズム感のキレの良さや、「ジャニコロの松」の美しさなど、極めて水準の高い演奏だと思いますが、早いテンポでスキップを踏むような、ただただ陽気な「アッピア街道の松」を聴いていると、確かに凱旋の行進で明るくても良いとは、思いますが、私の好みからは、あまりにもかけ離れた演奏でした。

「エルネスト・アンセルメ(1883~1969)
スイスの名指揮者アンセルメは、自らが創設したスイスロマンド管弦楽団との録音があります。

・ スイスロマンド管弦楽団
(1963年 1月 ジュネーヴ ヴィクトリアホール)
数学者でもあったアンセルメならではの、テンポ設定のうまさが光る明晰な名演。オケは音程が不正確だったり、縦の線がずれていたりといった乱れもありますが、アンセルメの精密なバランス感覚の良さで、この録音ではあまり気になりませんでした。
明るいカラフルな響きのなかにも陰影をくっきりとつけていて、フレンチスタイルの鄙びたバソンの響きも古典的な雰囲気にうまく合っていました。火事により失われてしまったヴィクトリアホールの響きを見事に捕らえた録音も良く、オルガンの重低音にうまく乗ったオケの響きが空間に豊麗に拡散していく様子がはっきりとわかります。
なお「アッピア街道の松」のブッチーナはサクソルン族を使用しています。
(2002.12.01)
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