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「惑星」を聴く5・・・サージェント

「マルコム・サージェント(1895〜1967)」
イギリス、ケント州生まれ、オルガニストと出発し1921年指揮デビュー、ハレ管、ロイヤルリヴァプールフィル、BBC響の首席指揮者を歴任し、プロムスの顔としてイギリスでは絶大な人気がありました。
すらっとした身体とオールバックの典型的なイギリス紳士風貌そのままに、折り目正しいきちっとした音楽が持ち味でしたが、今となっては、窮屈で古めかしさも感じさせることがあります。しかし、時として予想外の外面的な効果を狙った音作りをすることもあり、ツボにはまるとなかなか面白い効果を上げていました。
残された録音では、エルガーやブリテンなどのイギリス音楽やシベリウス、ヘンデルなどがサージェントの持ち味が良い結果を見せた名演奏でした。特にヘンデルの“メサイア"は、近代オーケストラを指揮した演奏としては、最高の名盤だと思います。
サージェントはホルストとも親交があり、「惑星」は2種のスタジオ録音とプロムスでのライヴ録音が残されています。

・ ロンドン交響楽団、合唱団
(1954年  スタジオ録音)
ロンドン響から黒光りするような重心の低い響きを引き出した充実の名演。
特に“火星"は第1拍と第4拍に強いアクセントをつけ、ひた押しに押してくる息詰るような緊張感を作り出しています。“金星"の詩情溢れる表現も実に素晴らしく、後半部分で多少リズムの重さが感じられるものの、後のBBC響との再録音よりも良い演奏だと思います。

・ BBC交響楽団、BBC合唱団
(1957年  スタジオ録音)
速いテンポの楷書風のシャープな演奏。旧盤と比べると随分と速くなりました。
曲想の変わり目で幾分テンポ落とし気味にして次第に加速していくのはサージェントの常套手段で、曲によっては不自然さを感じさせるところですがこの曲ではうまくいっています。ここでも“火星"は実に見事な出来で、“土星"のゆっくりとした不気味さ、とともに印象に残りました。“木星"の中間部アンダンテ・マエストーソも気品に満ちた出来映えですが、ボールトに比べると幾分冷たさが感じられました。

・ BBC交響楽団、BBC合唱団
(1965年  プロムスでのライヴ録音)
サージェント常連だったプロムスでのライヴ。スリムでメリハリの効いた辛口の演奏。
57年のスタジオ録音と大きな違いはありませんが、ソロ部分でちょっとした節回しにルバートをかけて洒落で小粋な印象を与えています。
息の長いクレッシェンドをかけながら、早いテンポで怒涛のように突き進む“火星"はなかなかの迫力。“木星"の中間部もさっぱりと仕上げていますが、この品格のある歌いまわしは、サージェント独特のものです。オケがサージェントの早いテンポに付いて行けず“木星"冒頭の弦楽器がグシャグシャとなるなど、アンサンブルの乱れが各所で見られるのが惜しいと思いました。

(2002.08.11)
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