back top next
「ラプソディー・イン・ブルー」を聴く4・・・作曲者自演

今回から、さまざまな演奏を紹介していきます。まずはガーシュインの自作自演から自動ピアノのために録音された演奏を聴いてみました。

昨年の暮にNHK総合で「映像の世紀」という番組が再放送されました。
その3回にガーシュインがラプソディ・イン・ブルーを演奏している映像が出てきます。
かなり強いタッチで上から押し付けるような弾き方が印象的でした。

ところでガーシュインの自作自演は、以下の演奏が残っています。
・1924年6月11日  ホワイトマン指揮のホワイトマンオーケストラ
・1927年       シルクレット指揮のホワイトマンオーケストラ
・1927年       ピアノ独奏版による自動ピアノのための録音
・1928年       ピアノ独奏版による抜粋録音
19世紀の終わりに開発された自動ピアノは、未だラジオやレコード録音が技術的に貧弱な音しか記録できなかった1920年代に最盛期を迎えました。当時は貧弱なレコード録音よりもピアノロールを好んだピアノの巨匠や作曲家も多く、レコード録音を残さなかったマーラーも自動ピアノのために交響曲第5番のロールを残しています。
しかし自動ピアノは高価なうえに調整が難しく、レコード録音の技術の発達と、1929年に起こった大恐慌を境に急速に姿を消してしまいました。

現在でもコンピューターを利用した自動ピアノが楽器店に置いてあり、ブーニンの弾くショパンなどを流したりしていますが、当時の自動ピアノは、音程や長さ、強さに対応した穴を組み合わせた紙製のロール紙を一定の速度で送りながら、空気で制御されたフイゴの力によってピアノの鍵盤を叩くことができる装置をピアノの鍵盤にセットしたり、ピアノに内蔵させたりして、自動演奏させるというものが一般的でした。

当然機械が鍵盤を叩くため、微妙なタッチの再現は不可能ですが、自動ピアノの完成期であった1920年代の後半のものを完璧に調整して再生すると、あたかも演奏者が目の前にいるかのような迫真の演奏が再現されます。

ガーシュインはテンパンアレイで活躍していた時代から、自作や当時の流行曲の自動ピアノのための録音を数多く行い、現在130本ほどが確認されています。

今回聴いたのは、自動ピアノの最後の時期である1927年に記録された、ガーシュインのピアノ独奏版による自演です。
今回は以下の3つのCDを聴いてみましたが、驚いたことに、3つとも同一演奏のはずなのに、聴いた印象は全く違いました。
(1) ピアノロールのデータを直接MIDIデータに変換し、現代の自動ピアノで再生したもの。YAMAHAのCF IIIに残響付加     13分35秒
(CD番号  PIAGE VPCH83324 )
(2) 1911年製のピアノラ(鍵盤を叩く装置)にロールを再生させ、その動きを光センサーで読み取ったデータをMIDI変換し、YAMAHAの自動ピアノ、ディスクラヴィアーDCF III Sによって演奏させたもの。
アーティス・ウォードハウスによる復元。 14分22秒
(CD番号 Nonsuch WPCC5659)
(3) オーストラリアの音楽学者デニス・コンドン氏が2年をかけて新たに設計、組み立てたエオリアン社製デュオ・アートのリプロデューシング・ピアノ(80本の指と2本の足を持つ、「フォルゼッツァー」とよばれる機械式自動再生ピアノ)を、ヤマハのグランドピアノC7の前に設置し、演奏を再現したもの。  13分21秒
(CD番号 DENON COCO75685 )

(2)と(3)では1分の演奏時間の差があります。いずれも音そのものはデジタル録音。
最新のコンピューター技術を用いた(1)(2)と当時の再生環境にできるだけ近づけた(3)の勝負となりましたが、聴いた印象は(3)の圧勝でした。
(3)は、タッチの微妙な陰影と奥行き、ダイナミックレンジの広さで最新の録音と寸分違わず聞き手に迫ってきます。演奏者の呼吸感も感じられ、あたかもガーシュインが目の前で弾いているかのような、生々しさでした。一方の(1)(2)は、音は鮮明でありながら、音楽が平板で生気が感じられず、音楽の間合いも不自然。完全に死者の音楽でした。
正直言ってこれほど差がつくとは思いませんでした。自動ピアノの再生の難しさをあらためて認識しました。

さて、その演奏ですが、ガーシュインが無類のテクニシャンであったことを見事に証明する出来です。そしてテクニックだけでなく実によく歌う演奏。ちょっとしたルバートから
楽想の変わり目を予測させながら絶妙な加速を見せ、そして意外な展開をパっと見せる鮮やかさなど天才的です。
練習番号22のピウモッソなどは、とても2本の腕による演奏とは思えない凄まじいテクニックですが、これは編集を加えてある(すなわち余分に穴をあけてある)のかもしれません。
特に終結部39グランディオーソのゴキゲンのテンポ感覚と音色の華麗さは圧倒的で、
正直なところグローフェの管弦楽編が色褪せて見えるほどでした。

自動ピアノについては、大阪の自動演奏楽器の工房の橋田様 http://www.enokiya.com/から貴重なアドバイスをいただきました。(2008年12月追記)


(2004.01.19)
back top next