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「悲愴」を聴く24・・・日本の指揮者たち 渡邊暁雄と朝比奈隆
今回からは、日本の指揮者を取り上げます。まず最初は、大御所朝比奈隆と渡邊暁雄の
悲愴です。

「渡邊暁雄(1919〜1990)」

日本人を父にフィンランド人を母に東京に生まれる。初めヴァイオリンを学び、その後指揮をローゼンシュトックとモレルに師事。1947年から東京フィルの音楽監督、1956年に日本フィルの創設に尽力。日本フィルや京都市響、東京都響の音楽監督を歴任しました。渡邊暁雄は、実に多くの録音を残していますが、特にシベリウスのスペシャリストとして名高く、二つの交響曲全集の録音があります。ステレオ初期には日本フィルを振って現代音楽の録音もあり、海外で高い評価を得ていました。他にはいわゆる通俗名曲の録音も数多いのですが、いずれも小中学生の教材用としての扱いを受けてしまい、必ずしも正当な評価を得られていないのが現状です。

・読売日本交響楽団
(1968年ころ  スタジオ録音)
研秀出版社が録音製作した「世界の名曲」というシリーズものの1枚。都会的な洗練と品格に満ちた優れた演奏でした。さわやかさの中にほのかな悲しみを漂わせていますが、
その分ロシア的な重厚さや深い悲劇性は薄れています。
ひそやかな歩みの第1楽章のアレグロ・ノン・トロッポ、第2主題の上品な歌いまわしも清潔感を感じさせます。見事な盛り上がりを見せる展開部以降も良く、このまま進めばかなりの名演となったと思います。早いテンポでさらっと仕上げた第2楽章、第3楽章もさすがに老練な盛り上がりを見せますが、ここで金管楽器の粗さが気になり、第4楽章もいまひとつでした。


「朝比奈隆(1908〜2001)」

東京生まれ、朝比奈隆といえば、日本ではブルックナーの権威として有名でしたが、指揮の師匠がグラズノフ門下のエマヌエル・メッテルであったため、チャイコフスキーなどのロシアものも得意としていました。亡くなった時の海外での訃報は、チャイコフスキーを得意とした指揮者といった紹介で意外に思った記憶があります。
録音も以下の4種類があります。全てライヴ録音。

・大阪フィル  1982年  1月
・大阪フィル  1990年 12月
・新日本フィル 1994年  2月
・大阪フィル  1997年  2月
今回は1994年のライヴを聴いてみました。

・新日本フィルハーモニー管弦楽団
(1994年 2月3日 サントリーホール ライヴ録音)
新日本フィル特別演奏会でのライヴ。音の強弱やテヌートやスタッカートなど実に楽譜に忠実であるものの、テンポは自由に動かしたメンゲルベルクやフルトヴェングラ−に一脈通じるロマンティックな演奏。
全般に遅く、第1楽章のアレグロ・ノン・トロッポもほとんどアンダンテの速さです。
68小節目のアニマートから突然の加速、第2主題はごく標準的な速さでした。展開部も
遅いテンポが支配していますが、振幅の大きなドラマティックな盛り上がりは凄まじいものがあります。よく練られて各楽器の細部のバランスが見事な第2楽章は、終結部で絶妙のテンポ運びを見せます。堂々たる風格の第3楽章はスケールの大きさでは圧倒的で、じわりじわりと音量を増すクライマックスでは息詰まる興奮を見せていました。
ほとんど切れ目なしに始まる第4楽章では、テンポを自由に動かし、悲しみの渦が荒れ狂います。
(2003.05.31)
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