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「悲愴」を聴く5・・・戦前派巨匠の演奏3 トスカニーニ
「アルトゥーロ・トスカニーニ(1867〜1957)」
イタリアのパルマ生まれ、フルトヴェングラーと並ぶ大指揮者トスカニーニ。
チャイコフスキーは、「悲愴」とマンフレッドの二つの交響曲、他に「ロメオとジュリエット」とピアノ協奏曲第1番に限定されていました。「悲愴」も指揮者活動の初期の頃は、ほとんど取り上げなかったそうです。
録音は以下の5種の録音が発売されたことがあります。
・ 1938年 10月29日
・ 1941年  4月19日
・ 1942年  2月18日  フィラデルフィア管弦楽団
・ 1947年 11月24日 
・ 1954年  3月21日
オケは、1942年録音以外は、NBC交響楽団。

今回は1942年フィラデルフィア管弦楽団、1947年NBC交響楽団の
2種のスタジオ録音を聴いてみました。

 ・フィラデルフィア管弦楽団
 (1942年4月18日 フィラデルフィア アカデミー・オブ・ミュージック)                                        
 トスカニーニは、1941年秋フィラデルフィア管に客演しました。
前年フィラデルフィア管を世界一流の楽団に育て上げたストコフスキーが常任指揮者を
辞任、そしてNBC交響楽団の常任指揮者にストコフスキーも就任するといった状況が生まれました。どうもこの時トスカニーニはNBC響を辞任する意向があり、トスカニーニの後任としてストコフスキーにお声がかかったとも言われています。結局ストコフスキーを嫌っていたトスカニーニは辞任せず、ストコフスキーは創設まもないニューヨークシティ響の音楽監督に無報酬でいくはめに…、
そのような複雑な事情の下、トスカニーニはフィラデルフィア管の演奏会に登場、結局演奏あまりの素晴らしさに、RCAが急遽録音を行うことになりましたが、原盤のメッキの過程がうまくゆかなかったという理由で発売は見送られました。
結局日の目を見たのはLP時代に入からで、今回CDで聴きましたが、
とても失敗とはいえない当時の水準としては立派な音質です。

演奏は、早いテンポで整然と仕上げた極めて明晰な名演。オケの明るい音色もあり、華やかな印象です。第1楽章第2主題もあっさり仕上げていました。興味深かったのは、第1楽章展開部直前のpppppp。多くの指揮者がバスクラリネットを用いる中、指定通りのファゴットを使用。(しかしソロはかなり不安定で、完全にコケています)
その後展開部の170小節目の突然の急ブレーキ、第4楽章110小節目のモデラート・アッサイよりも続くアンダンテの方をはるかに早くするなど、随所にトスカニーニ独自のテンポの動きが見られました。インテンポで突き進む第3楽章は、低音部の動きが実に雄弁。第4楽章50小節のポコアニマート部分で、次第に厚みを増し悲しみを増幅していく部分の描き方が見事だと思いました。

・ NBC交響楽団
 (1947年11月24日 カーネギーホール スタジオ録音)
竹を割ったようなスパっと仕上げた、フイラデルフィア管との旧盤以上に整った演奏。
トスカニーニの棒に慣れている分、アンサンブルの精度はこちら方が上で、例の第1楽章展開部直前ファゴットのppppppも、見事に決まっています。
ただ、第1楽章の第1主題が異様に早く、ホルンの強奏も無機的な響きなのが気になりました。
「クルミ割り人形」の音楽を連想させるしなやかさを見せた第2楽章のチャーミングな表現、豪快で輝かしさに満ちた第3楽章は、トスカニーニならではの凄味を見せた演奏でした。第4楽章はこの演奏の頂点とも言える出来で、力を抜いた無表情さを見せて始まる40小節目のアンダンテは、曲が進むにつれて表情が次第に濃厚となり、壮大なクライマックスを築き上げていました。
(2003.02.12)
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