「ベートーヴェンの7番を聴く」71・・・独墺系の指揮者たち13 ミュンヒンガー
「カール・ミュンヒンガー(1915〜1990)」
シュトゥットガルト生まれ、ライプツィヒで指揮をアーベントロートに師事。
1941年にニーダーザクセン管弦楽団の指揮者。1945年にシュトゥットガルト室内管弦楽団を組織、バッハやヴィヴァルディの斬新な演奏で有名になりました。
ミュンヒンガーはDECCAに残したヴィヴァルディの「四季」やバッハの一連の曲の演奏で有名な存在になり、バロック音楽の演奏で本領を発揮しました。

一時期フルトヴェングラーの後継者と目されたこともあったそうですが、「レコードはまっすぐに」(ジョン・カルショー著 山崎浩太郎訳)を読むと、ウィーンフィルの団員からの評価は極端に低かったようです。
晩年はシュトゥットガルト古典フィルハーモニーを組織し、編成の大きな曲の録音も残しましたが既に時代遅れの感は否めず、生きながら過去の存在となっていました。

・シュトゥットガルト放送交響楽団
(1985年11月 シュトゥットガルト  スタジオ録音)
ミュンヒンガー晩年の独逸インターコードへの録音。同時期のベートーヴェンには同じオケを振った第2,3,6番の交響曲録音があります。

美しくも丁寧、さらに単純な演奏です。オケもうまいし各楽器のバランスも見事。
特に大きな不満はありませんが、面白みに欠け平凡な演奏と感じるか、あるいはひたすら心地よい響きに身を委ねて良しとするかによってこの演奏の評価は分かれると思います。

テンポを大きく動かせることはありませんが両端楽章のコーダ部分での自然な加速や
曲想が変わる部分での微妙な間やテンポの揺れはあります。

第一楽章主部のVivaceの2小節前から加速、66小節めで微妙にテンポを落しています。110小節目2拍めでのトランペットの強調は平坦な音楽の流れの中のひとつのアクセント。通常加速することの多い267小節はテンポの変化なく、再現部手前でもテンポは落していませんでした。348小節目の1拍めにアクセント付加。
コーダの前389小節のffからちょっと間をおいてのpのタイミングはうまいと思います。

第二楽章の深い音での弦楽器が入りはフルトヴェングラーの影響でしょうか。
小細工なしのロマンティックで美しい音楽が展開。
第三楽章ではバロック風のカッチリ明確なリズムが支配する両端部分と、のびやかな中間部との対比が見事。中間部のffの4小節前でテンポを落していました。

健康的な第四楽章は、ガラ空きの高速道路をゆっくりと走っているような演奏です。
ひたすら安全運転。
力強さや精神的な深さは感じられませんが、楽譜に書かれた音は見事に音になっていました。360小節から加速しコーダに突入、49小節でホルン強調。

無理のない自然体の演奏で、ベートーヴェン自身に全てを語らせるといった趣です。
オケをがっしりと掌握し堅固に音楽を積み上げるのには年の功を感じますが、50年代から70年代の演奏に同種の演奏が多い中では、個性に欠けるように思いました。

今回聴いたのは、駅売りCDのような体裁で売られていた独インターコードの輸入CDです。解説と標記は日本語でした。音はクリアで非常に良い音です。
(2011.08.29)