「ベートーヴェンの7番を聴く」68・・・独墺系の指揮者たち11 ヨッフム
「オイゲン・ヨッフム(1902 - 1987)」

南ドイツのバーベンハイゼン生まれ、ヨッフム家は有名な音楽一家で弟も指揮者。
ミュンヘンオペラの練習指揮者からキール歌劇場、マンハイム歌劇場の後、ハンブルク国立歌劇場の音楽監督、戦後はバイエルン放送響の創設時に係わり首席指揮者となりました。その後アムステルダム・コンセルトヘボウ管やバンベルク響の首席指揮者を歴任し、両オケを率いて来日もしています。

ヨッフムのベートーヴェンには3つの交響曲全集録音があり、他にライヴ録音が出ています。

・ベルリンフィル            1952年  
・ロイヤルコンセルトヘボウ管      1969年
・ロンドン響              1976年
・バンベルク響             1982年 ライヴ録音

・ロンドン交響楽団
(1977年9月30日、10月1日 ロンドン キングズウェイホール スタジオ録音)
ヨッフム3度目となるベートーヴェンの交響曲全集中の1枚。

独逸的な堅牢さと現代的な表現の見事な融合。ロンドン響の性格もありますが、いわゆるドイツ風の重厚さ素朴さといった部分から離れていて、同じ方向のアプローチでありながら、ケンペの演奏とは大きく印象が異なります。
繰り返しは全て励行していました。ベートーヴェンが書いた音符は全て音にするという姿勢のようです。
第四楽章の主題のホルンは、木管楽器と同じ動きに改変しています。

第一楽章冒頭からさわやかで軽い響きで始まります。58小節1拍めの4分音符の柔らかな着地が印象的。ヴィヴァーチェの手前の61,62小節で微妙に速め、276小節再現部手前で大きくテンポを落して278小節に突入。
オーボエソロの下の弦楽器の和音の変化の移り変わりを強調。
398小節コーダの前で速める。コーダの大きなうねりを上げながら盛り上げていきます。

第二楽章ではロンドン響から重い響きを引き出していました。28小節からのセカンドヴァイオリンが入るあたりのヴィオラとチェロの悲しみの表情。67小節から初めて入る木管群の入りは聞こえないほどのピアニシモ。
第2主題手前のディミヌエンドの加減と225小節のコーダに入る前の微妙なテンポの落としかたが絶妙。中間部の浮いては消える木管楽器とバスの軽い響きには儚い美しさと孤独感が漂います。

第三楽章も繰り返しを全て実施。その結果ずいぶんと長い曲となりました。
220小節からの経過部分で、弦楽器が2小節単位で伸ばしてコードが変化しスケルツォの再現となる部分ではバスを強調させていました。

第四楽章へは切れ目なしに突入。(これはLPもCDも同様)
単調になりがちなこのフィナーレも、リピートを全て励行しながらもダレずに緊張感が崩れないのがお見事。主題のホルンの後半は木管楽器と同じように旋律化。
132小節からバスを強調させ、182小節から譜面にない長大なクレシェンドが始まります。コーダのスピード感も見事なもの。341小節ではヨッフムのうなり声が聞こえます。コーダ終盤ではテンポを段階的に速め、充実したクライマックスを築いていました。

天才的な閃きは感じられませんが、ベートーヴェンの書いた譜面をじっくり読み込み、長年の経験で熟成した非凡な演奏です。

今回聴いたのは70年代の初出国産LPとDISKYからのCDです。アナログ末期の力のある艶のある音はLP独特のもの。LPが良い音でした。


(2011.07.16)