「ベートーヴェンの7番を聴く」67・・・独墺系の指揮者たち10  ケンペその2
・ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
(1970年6月15日  ドレスデン 聖ルカ教会  リハーサル録音)

1970年6月18日のべートーヴェン・イヤーコンサートのためのリハーサル時の録音。

この頃のケンペとドレスデンシュターツカペレは、同じ会場でR.シュトラウスの管弦楽曲全集録音という大きなプロジェクトを進めていました。(EMI録音)
この録音は、この日会場にいた録音技師が、その場にあった空のテープを用いての思いつきから録音したもののようです。

「エグモント」序曲、交響曲第7番の第一楽章、第二楽章と第三楽章の途中までのリハーサルが収録されています。
第三楽章の途中で空のテープが尽きてしまい、結局第四楽章のリハーサルは収録されませんでした。本番での録音も残っていないようです。

「エグモント」序曲と交響曲第7番の第一楽章に長い時間を費やし、第ニ楽章、第三楽章は短いものです。第二楽章はほぼ通し演奏となっていました。
ドイツ語は不案内なので詳細はわかりませんが、ケンペの穏やかな話しぶりと時折漏れる楽員の笑い声に聞かれる和気藹々とした雰囲気に両者の関係が非常に良好であることがわかります。

内容は、一年後のミュンヘンフィルとのスタジオ録音の解釈の課程がそのまま確認できる興味深いものです。

ケンペの指示は、世界最古のドレスデンのオケに対して、この曲の要ともいうべきタンタタのリズムをしつこいまでに再確認するものでした。

ケンペの指示は実に具体的で、第一楽章の22−23小節のオーボエソロが入るディヌエンドしながらピアノとなる部分を、ピアニシモとしつつ4拍めのスタッカートを強調させて優しさの表現を歌いながら指示。同じフレーズを繰り返す弦楽器の29小節ではスタッカートなしとして対比を際立たせていました。
ヴィヴァーチェではフルートソロ前のリズムのタンタタを再確認。

138,139小節の一拍目では、ひとつのフレーズの終わりの音を長めに演奏させていました。ただ、そのために全体の動きが鈍くなるのを警戒して、ケンペは足踏みをしながら何度も何度もタンタタのリズムを強調していました。
練習番号N(コーダ)の開始は神秘的な響き。

第二楽章はドレスデンのオケ独特の柔らかな品格のある響きで始まります。
オケがケンペの指揮によく反応し、演奏をほとんど中断せずに自然に流していました。
弱音が軽くならないように指示しているようです。

第二楽章の最後の部分で、教会の鐘の音がはるか遠く頭上から降ってくるように聞こえてきました。鐘楼は録音会場から離れた所にあるようです。
なんとも良い雰囲気で響いていました。

第三楽章、中間部の211小節のフォルティシモのクライマックスではオケを限界まで鳴らし切り凄まじいまでの迫力。
この楽章の310小節までで収録は終わっています。

今回聴いたのはORFEOから出ていたLP2枚組です。上記2曲のリハーサルのほか、ケンペのインタヴューが収録されています。
教会でのリハーサルのために残響が長めですが、ケンペの声とドレスデンシュターカペレの温かく柔らかな音を上質な形で捉えた良い録音だと思います。
第2楽章の終わりの部分で聞こえる教会の鐘の音も、ノイズとしてではなく、あたかも音楽の一部のように良いバランスで響いていました。


(2011.07.05)