「ベートーヴェンの7番を聴く」55・・・・独墺系の指揮者たち5 クリップスその2
今回はクリップスのオランダ客演時のライヴ録音を紹介します。

・ ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団
(1952年5月24日 アムステルダム コンセルトヘボウ ライヴ録音)

豪快なほどの力強さと熱い推進力が魅力の演奏。クリップスの多くのスタジオ録音で聴かれる独特の優雅さは感じられません。

第一楽章冒頭からずしりと充実した力強い響き。オケの自発性を生かしながら雄渾に盛り上げていきます。260小節めからホルンとトランペットの音量を落として弦楽器の動きを浮き彫りにするなどの職人芸も随所で見せます。

響き豊かに自然に歌う第二楽章は、大らかでありつつ隙のない音楽運び。213小節からホルンとトランペットの刻みを強調しつつフォルティシモのクライマックスへ突入していきます。第三楽章は軽快にしてすっきりと聴かせ、中間部も粘らずもたれず鮮やかなほどの精気に満ちたリズムの饗宴。

第四楽章の最初はいくぶん重く感じました。50小節あたりから加速しつつ111小節からは今まで満を辞していたティンパニを鋭く強調させるあたりから興奮のヴォルテージは急上昇。高まる緊迫感の中、トランペットのクレシェンドを強調しながらのコーダでの熱い盛り上がりも見事なものでした。終演後の客席も大いに沸いています。

トスカニーニの影響を大きく受けているようにも思え、厳しいまでの構成力と凝縮された無駄のない音響で練り上げた演奏でした。後のロンドン響との幾分ノンキな演奏と比べるとは全く別人のように聞こえます。

この時期のクリップスに一体何が起きたのでしょうか?
コンセルトヘボウ管の美点を最大限に引き出した名演ではあります。

今回聴いたのは、コンセルトヘボウ管自主制作のコンセルトヘボウアンソロジー中の一枚、アセテートディスクへの録音らしく定期的に針音が聞こえますが、楽器の分離も明快な良い音でした。
(2009.10.31)