「ベートーヴェンの7番を聴く」37・・・・ 戦前派巨匠の演奏9 エーリッヒ・クライバー

「エーリヒ・クライバー(1890〜1956)」
ウィーン生まれ、第二次世界大戦前にはベルリン国立歌劇場の音楽総監督として、ベルクなどの当時の現代音楽を積極的に紹介。その後ナチと衝突後し、南米に活動の本拠を移しました。戦後はヨーロッパ楽壇に復帰しましたが、ドイツを中心に本格的な活動を始めたばかりの時期に亡くなってしまいました。

ベートーヴェンの交響曲は、第2、3,5,6,7,8、9番の7曲のスタジオ録音があり(第8番は第2楽章のみ)、ライヴでは第4番も含む多数の録音がありますが、第7番はスタジオ録音1種のみです。

・アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(1950年5月9日  アムステルダム コンセルトヘボウ スタジオ録音)

強烈なリズムの奔流と吹き上がるような熱狂。この交響曲の魅力を余すことなく捉えた名演です。速いテンポで進めながらも、楽器のバランスと速度の変化を実に細かな部分までコントロールした緻密な仕上がりを見せているのも驚異的です。この美質は息子カルロスにも引き継がれ、解釈にも数多くの共通点があります。

弦楽器の重音長めの第一楽章冒頭に続くオーボエの響きは、ウィンナオーボエのような明るく軽い響き。速いテンポで音楽が流れる中、ゆとりとスケールの大きさが感じられるのが見事。23小節からの副主題の典雅な歌も印象に残ります。
主部のフェルマータは短めで続く主題もバランス良く颯爽と吹き抜け、100小節からのトランペットのタタンの刻みを強調、再現部直前250小節めからは、弦楽器の2,4拍めを微妙に短く演奏させ、音楽の推進力と緊張感を高めることに成功しています。
オーボエソロ前のフェルマータもあっさり短く片付けますが、コーダの開始部分401小節めに転ぶような突然の大ブレーキ。これには驚きました。転倒したランナーが再び走り出すかのように加速しながら音量もアップしながら長大なクライマックスを構築。

第ニ楽章冒頭和音は短めに切り上げ、主題の1拍目をテヌート気味とし落ち着いた歩みの健康的速度で進行。コンセルトヘボウ管独特の飴色でメロウな響きが美しく響きます。第3変奏の75小節のクライマックスの前で加速し、そのままのテンポで中間部の木管が歌い、クレンペラー同様にピチカートのまま終結。

第三楽章は嵐のような激しさの開始。20小節めから加速。中間部に入るリピート記号の直後に明らかな編集の跡があります。牧歌的で優雅な中間部は優秀な木管セクションにより実に聴き映えがします。221小節で聞かせるトランペットからホルンへの下降音型のトロリとした受け渡しも印象的。

堂々たる威容の第四楽章の開始、以後は軽く力を抜き軽快に進行。33小節の第1ヴァオリンの16分音符の入りのタイミングも実に絶妙。63から数小節の間の第一ヴァイオリンの細かな動き部分テンポを上げていますが、加速の具合が唐突で違和感があります。同じ繰り返しの280から290小節も同様。
75小節から90までのピアノとフォルテの交代はあまり意識せずにフォルテのまま突っ走ります。146小節の第一主題回帰の部分でも一拍めでぐっとタメを作り変化をみせていました。345小節でこれまた大ブレーキ、その後の360小節以降の弦楽器の掛け合い部分で素晴らしいスピード感を獲得しています。クレシェンドを効かせながらコーダの370小節でさらなる加速。402小節のホルンはファゴットと同じ音型に改変。

フォルテの後のスビュート・ピアノへの変転が実に鮮やかに決まっていました。生き生きとした躍動感と輝かしいスピード感に満ちた名演でした。仄かに漂うロマンティックにしてエレガントな気分は、父クライバーの生きた時代の反映でしょうか。

今回聴いたのは日本キングが出していた国内盤LPと、著作権切れの録音を格安で出しているアンドロメダのCDです。アンドロメダのCDは、左右バランスが左に偏っている上にヘッドフォンで聞くと逆相のようなおかしな響きです。しかも第3楽章で他の音楽が混入しているというヒドイもの。
一方のLPは、高音寄りのカッティングとLP片面に詰め込んだためにレンジが狭くなってしまいました。優秀さで鳴らしたDECCAの録音であるために、オリジナルのLPか正規のCDで聴きたいところです。
(2008.12.16)