「ブラームスの2番を聴く」5・・・・・初期の録音 ワインガルトナー
「フェリクス・ワインガルトナー(1863 - 1942)」

クロアチア生まれ、4歳の時にオーストリアのグラーツに転居。リストとライネッケの教えを受けています。1891年に27歳の若さでベルリン宮廷歌劇場総監督。1908年にはマーラーの後任としてウィーン宮廷歌劇場の総監督、ウィーンフィルの常任指揮者を歴任。1937年に来日し新交響楽団(現在のN響)を指揮しています。

ワインガルトナーは、ビューローのようなその場のインスピレーションで自由に演奏するタイプではなく、きっちりと譜面に忠実なハンス・リヒターの影響を受けた指揮者です。

ワインガルトナーが名声を確立した時ブラームスはまだ存命でした。
1895年4月にベルリンフィルがウィーンにやって来て、3日間でブラームスの交響曲全曲を演奏したことがあります。
指揮はR.シュトラウス、モットル、ワインガルトナーの3人で、ワインガルトナーは第2番を指揮しました。ブラームスはこの3日間の全部の演奏会を聴いた後、ジムロックへの手紙の中でワインガルトナーの演奏を最も絶賛しています。

ワインガルトナーのブラームスには4曲すべての交響曲録音があります。

・ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
(1940年2月26日           ロンドン スタジオ録音)
ワインガルトナー晩年の名演。三遊亭圓生の落語を聞くような磨き上げられた気品と独特の間が絶妙な演奏でした。テンポは全体に速めで軽くしなやかに音楽は流れていきます。

第一楽章冒頭からゆったり軽く柔らかな開始。42小節のオーボエの動きに軽いアクセントをかけていました。75小節から80小節へのテンポを微妙に落としながら自然に第2主題へ移行していきます。
135小節からも快調に進み、展開部210小節のさりげないヴァイオリンのスタッカートの動きも深い意味があるようです。298小節からスパッと気分を変え、再現部へ突入していくところなど見事なものです。
430小節でテンポを落とし、456小節からのホルンソロからヴァイオリンの自由な動き。477小節のin tempo ma piu tranquilloで冒頭の遅いテンポに回帰して静かに終結。

第二楽章のチェロの主題は速めのテンポの中に微妙に揺れながら大きく優しく歌います。20小節目前後のホルンのソロに絡むオーボエやファゴットの自由なテンポの揺れもお見事。45小節からテンポを早めて緊迫感を演出。73小節からの地の底から湧き上がるヴァイオリンの旋律も印象的でした。

第三楽章の穏やかなテンポの中に軽妙洒脱な雰囲気が漂います。
63小節からの細かなパッセージも整然と進行。190小節での経過句でのテンポの落とし方や219小節前のフェルマータの絶妙の間は名人芸の域。
ただこの部分はSPの面が変わるかもしれない箇所なので、CDを作成したときの編集者の音楽センスの賜物かもしれません?
200小節以降の優美な歌も印象的。

第四楽章は速めのテンポでスピィーディに進行。
大空に飛翔するような躍動感の中には激しい部分も聞かせます。そのままのテンポで第2主題に突入。しゃにむに突き進む激しさも見せますが常に一定のテンポ感覚が支配していきます。con moto sempre tranquilloで初めて大きくテンポを落とし続くコーダでリセット。終結部へ向かってごく自然にテンポを上げて大きなクライマックスを築き上げていました。

近代的でスマート、ブラームスの意図に忠実に格調高く歌い上げた名演でした。

ワインガルトナーがベートーヴェンの交響曲を演奏する際には、楽器の補筆などかなり手を加えるのが常でしたが、同時代に生き直接係りのあったブラームスの場合は譜面にはなんら手を加えていないようです。

今回聴いたのはアメリカのAllegroが出した交響曲全集中の一枚。
針音をカットしわずかに残響を加えた人口なステレオ。オーボエなど金属的なキンキンとした音で、弦楽器も時としてシンセサイザーのような人工的な音がしている失敗作。
(2012.06.10)