「ブラームスの3番を聴く」44・・・ルーマニアの指揮者たち2 マンデアールとベルゲル
今回はルーマニアのブラショフ生まれの二人の指揮者の演奏です。

「クリスチアン・マンデアール(1946 - )」

ルーマニアのブラショフ生まれ、ブカレスト音楽院で指揮、作曲を学ぶ。1980年トランシルヴァニアフィルの指揮者を経て、1991年“ジョルジュ・エネスコ"ブカレストフィルの音楽総監督。1993年以来数度来日。

・“ジョルジュ・エネスコ"国立ブカレストフィルハーモニー管弦楽団
(1995年 10月10 - 13日 ブカレスト スタジオ録音 )

1,000円を切る廉価シリーズ、アルテノヴァから出ていたブラームス交響曲全集録音中の1枚。
全編メゾフォルテの音楽、遅いテンポ、変化に乏しくレガート多用の柔らかで軟体動物のような演奏。退屈な演奏で、音が十分に鳴らないオケにさらなる欲求不満が溜まります。

第1楽章リピートなし、ウン・ポコ・ソステヌートは止まりそうなほどの遅さ。
早いテンポの第2楽章は後半でテンポがころぶようで不自然、第3楽章最初のチェロの一音が異様に長くこれには仰天。途中でせかせか走り出し中間部はスキップのよう。遅いテンポの第4楽章はさらに柔らかで掴み所のない演奏で、丁寧に演奏しているのか、オケがついていかないのか、理解に苦しむ演奏でした。

両端楽章が遅く中間楽章は早めのテンポ、これはリンデンバーグの解釈に非常に近いものがあります。しかしこちらはある種のアクの強さがあり、ブラームスとは異質なものを感じてしまいました。

「エーリヒ・ベルゲル(1930 - 1998) 」

ルーマニアのブラショフ生まれ、クルージュの音楽学校で指揮、作曲、オルガンを学ぶ。トランシルヴァニアフィルの首席指揮者に就任しましたが直後に逮捕されてしまいました。1965年に復帰、その後カラヤンに招かれベルリン・フィルをはじめ各地のオーケストラを指揮。ルーマニアを離れた後は、ブダペストフィルの首席指揮者。
ベルゲルは録音こそ少ないですが、「英雄」などの演奏を聴くと、大変な才能を持った指揮者だったようです。 N響に来演した時の指揮姿を見たことがありますが、鬼気迫るような独特の雰囲気を漂わせた指揮ぶりが印象に残っています。

ルーマニア時代は不遇でしたが、ルーマニア脱出やその後の演奏活動についてはカラヤンの尽力がかなりあったそうです。

・トランシルヴァニアフィルハーモニー管弦楽団
(1994年 ブカレスト SMEIスタジオ スタジオ録音)

ルーマニア北西部の文化都市クルージュにあるトランシルヴァニアフィルを振った交響曲全集中の1枚。ハンガリーのマイナーレーベルBMC(ブタペスト・ミュージック・センター)から出ているCDです。
青白き炎が密かに燃えているような、静けさと張り詰めた緊張の漂う演奏でした。

極端に遅いテンポ、横に流れる演奏で、第一楽章のリピートはありませんが演奏時間10分を超えています。大河のうねりを思わせる第1楽章展開部はクナッパーツブッシュ盤のような凄みさえ感じられます。

曲の各所で微かに聞こえるベルゲルの「ふー、ふー」というため息のような声が一種異様な雰囲気を増長。ロマンの陰を落とした第3楽章は、軽みのある中間部と主部の陰影の対比が絶妙でした。

1955年創立のトランシルヴァニアフィルはチェリビダッケとベルゲルの薫陶を受けたオケ、この録音を聴く限りでは極めて優秀で、アンサンブルの精密さと音色の透明度ではルーマニア第一のオケと言われる“ジョルジュ・エネスコ"ブカレストフィルの遥か上を行っています。
(2005.04.29)