「ブラームスの3番を聴く」34・・・・独墺系の指揮者たち3 カラヤン3
カラヤンの3回目は、二つのライヴを紹介します。

・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1985 2月23日 フィルハーモニーザール ライヴ録音)

85年当時のFMからのエアチェックテープ。同じ内容がCD−Rの海賊盤でも出ていました。手元にあるのは20年前に安物カセットデッキで録音したカセットテープですが、幸いなことにテープもワカメ状になっておらず、良好な状態で残っていました。

当日はこの後にR.シュトラウスの「英雄の生涯」が演奏されています。
ライヴのカラヤンの凄さが如実にわかる名演。スタジオ録音とは大きく異なる解釈の演奏で、テンポの変化も即興的で自由自在。

第1楽章は59小節目へ向けて大きくアチェレランド、展開部77小節めからさらに加速。
120小節へかけてのものものしいリタルランドと大きなクレシェンド。120小節目の冒頭再現の音を大きくのばし、124小節からの第一主題はものすごい速さで走り抜けます。まるで歌舞伎の大見得のようなドラマティックさ。182小節も事前にタメをつくり大波小波の凄まじさです。リピートなし。

第2楽章はちょっとした間を作る即興の妙。52小節からわずかな加速。
第3楽章はチェロのフレーズを長めにとる独特のもので、2拍目が特に長くなっています。
爽快にして疾風怒濤の第4楽章は、149小節で巨大クライマックス盛り上がりでのティンパニの一撃も見事。終結部の改変はあり。

・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1973年1月 - 3月 ベルリン フィルハーモニーザール ライヴ映像)

カラヤンはその晩年、自宅に巨大な映像の編集ルームを造り、自分の演奏の映像化に心血を注ぎました。

この映像も自ら芸術監督となりユニテルから発売した映像で、現在DVDで発売中。
この一連のブラームスの交響曲全曲映像は、かつてNHKで放送されたことがあり、その時の画面表示では、4チャンネル収録の表示のテロップが出ていました。

カラヤンの映像作品の多くは「幻想交響曲を聴く」で紹介した映像のように、カラヤンの指揮姿が中心で、他に出てくるのは楽器の異様なクローズアップと、音にあわせて楽器を演奏しているふりを強いられている奏者たちの無表情な画面ばかりで、はなはだ不自然なものが多いですが、この映像は実際にお客を入れて(このお客はサクラのようです)、フィルハーモニーホールで収録された擬似ライヴです。
他の映像で聴かれた音と映像のズレは弦楽器に関する限り気が付きませんでした。

カラヤンの映像で必ず出てくる管楽器奏者がきれいに一列に並ぶ様子や、細かなホコリを巻き上げながら叩かれるティンパニのショットはあきらかに別採りですが、管楽器奏者の指使いが、実際に出てくる音と異なっていたパリ管との幻想交響曲の映像のような不自然さはさすがに改善されています。

この年にカラヤンは来日していますが、この時期がこのコンビの関係が最もうまくいっていた最盛期で、演奏も83年のライヴに聴かれたような白熱の演奏で実に見事なものです。

コンサートマスターのシュピーラーとブランディス、チェロ主席のボルヴィツキーらの名手が思い切りバリバリ弾いている映像を目にするだけで、地響きが聴こえてくるようです。第3楽章ホルンソロはザイフェルト。

第4楽章も凄まじい盛り上がり、劇的でありながらいつも冷静なカラヤンが印象的。
画面上ではオーボエ3本、トロンボーン4本が移りますが、これは演出かもしれません。
スタジオ録音でおこなっていなかった第4楽章終結部での改変は有り、ヴァイオリンが第一主題の旋律線をそのまま演奏している様子が、カメラがはっきり捉えています。
楽器のバランスを自由に操作できるスタジオ録音と会場の条件で響きが変わるライヴでは、演奏の効果を考慮して、その場に応じて解釈を変えていたことが判ります。
(2005.04.02)