「ブラームスの3番を聴く」57・・・・独墺系の指揮者たち9 サヴァリッシュ
「ウオルフガング・サヴァリッシュ(1923 - )」

ミュンヘン生まれ、ミュンヘン音楽大学で指揮とピアノを学びますが、やがて第二次世界大戦が勃発、徴兵されてしまいます。
サヴァリッシュがピアノの腕を買われて慰問コンサートへ出演している留守中のこと、所属部隊に出動命令がかかりサヴァリッシュ一人が取り残されてしまいました。激戦のスターリングラード攻防戦に投入されたその部隊の人達は結局誰も戻ってこなかったそうです。
その後サヴァリッシュは通信兵としてイタリアに移動、対戦車部隊の斥候分隊の一員として最前線を転戦し、敗戦時には敗残兵として放浪して相当苦労したようです。

サヴァリッシュ自伝「音楽と我が人生」(邦訳有り)を読むと、戦時中のイタリアでの兄との劇的な再会など、第二次世界大戦中のサヴァリッシュの体験がドラマティックに書かれています。

戦後1947年にアウクスブルク市立歌劇場でデビュー。1949年にはピアノ奏者としてジュネーブ国際音楽コンクールの二重奏部門で1位なしの2位。アーヘン歌劇場、ウィスバーデン、ケルン市、バイエルン国立などの各歌劇場及びフィラデルフィア管の音楽監督、ウィーン響、スイス・ロマンド管の首席指揮者を歴任。
1964年の初来日以来、ほぼ毎年のようにN響を振るために来日、現在N響桂冠名誉指揮者。

サヴァリッシュのブラームスは二つの交響曲全集があります。

・ウィーン交響楽団
(1959 - 62   ウィーン  スタジオ録音)

フィリップスに録音したサヴァリッシュのブラームスの第1回全集録音、このときに「ハイドンの主題による変奏曲」と二つの序曲。ドイツレクイエムも含んだ声楽曲も録音されています。
10年も首席指揮者でありながら、ウィーン響とフィリップスとの録音契約がサヴァリッシュの在任中に終了してしまったため、この組み合わせの録音は意外と少なく、このブラームスの一連の録音が最大の成果と言えそうです。

この時期サヴァリッシュの指揮で、モーツァルトとハイドンの交響曲全集録音の計画があり、特にモーツァルトについては、具体的な話まで進んでいたようですが、プロデユーサーが辞めてしまったりとしたアクシデントがあり、結局実現しませんでした。

端正で引き締まった演奏、すっきりとした爽快感も感じさせる好演。
サヴァリッシュ特有の鮮やかな棒さばきが目に見えるような演奏でした。
快速調の第1楽章では演奏全体を不動のテンポ感ががっしりと支配、一部48小節目でわずかな減速、リピートなし。
女性的で美しくたっぷり歌う第2楽章は、遅いテンポでウィーン情緒も漂います。

第3楽章は幾分情に流されすぎで、旋律の終わりの部分で横に流れてしまっています。
ロマンティックですが芯がない印象。
快速に進む第4楽章では第2主題ののびやかさが良く、終結部へのテンポの移行も自然。
終結部は半分の奏者のみ改変させているようです。

ウィーン響も敏感に反応していて、聴いていて気持ちの良いまっすぐな演奏でした。
この録音は70年代にフィリップスのグロリアシリーズの1,000円盤でよく見かけた全集で、LP2枚に4曲詰め込んだ超廉価盤でした。CDでもフィリップスの2枚組廉価のDUOシリーズで比較的入手は容易ですが、私が今回聴いたのはアメリカでプレスされたMurry HillというレーベルのLP4枚組の全集ものです。

国内盤と異なり、LP1枚両面にたっぷりカッティングされていますが、元マスターテープが何世代を経たコピーを使用しているようで、細部の明瞭度に欠ける音でした。

・ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
(1991年12月19、21日 ロンドン アビーロード第一スタジオ スタジオ録音)

2回目の全集中の1枚、EMIへの録音。
深い呼吸のゆったりした演奏、いわゆる重厚、ドイツ巨匠タイプのブラームス。
旧盤よりもテンポはぐっと遅くなりました。

第1楽章の156小節でテンポをぐっと落としたり、遅く開始の第2楽章が26小節目から急に早くなったりといったテンポ変化があります。それでもさほど不自然な印象を受けないのは、経験の積み上げの成果でしょうか。

演奏全体でティンパニの響きが明瞭に捉えられ、第1楽章120小節頭の強打と第4楽章終結部16分音符の絶妙な減速は聴きものでした。

旧盤よりも練れたうまさは感じますが、幾分重く肥大感も感じられます。これは特に第1楽章で顕著でした。中では陰影の濃いロマンの香り漂う第3楽章が最も良いと思いました。
今回聴いたのはEMIの輸入盤CDで、ロンドンフィルの古風な音色をうまく捉えた録音だと思います。
演奏はカップリングの第2番が素晴らしい名演でしたが第3番はそれほどでもない、というのが正直なところです。
(2005.05.27)