「ブラームスの4番を聴く」36・・・・独墺系の指揮者たち3 カラヤンその3
今回はベルリンフィルとの第2回全集録音と83年のライヴ録音を紹介します。

・ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(1977年10月19、20日、12月7日、78年1月23日
ベルリン フィルハーモニー・ザール  スタジオ録音)

カラヤン2度目のブラームス交響曲全集中の一枚。
第一楽章では93小節の8分音符を弱めにセンチメンタルな儚さを演出。再現部に入る前段の199小節から201小節でひとつひとつの音符のクレシェンド・デクレシェンドを効果的に再現。

遠くから少しずつ近づいて来るかのようなクレシェンドが印象的な第二楽章は、白夜的な静けさと美しさが楽章を支配。後半の最大の聞かせ所の88小節から筋肉質の逞しい響きで弦楽器をたっぷりと鳴らしますが、ここの部分が突出しているかのような違和感があります。
第三楽章の149小節ではアクセント指示の部分をレガートで進行。スマートで無駄のなさは好感が持てますがパンチに欠ける傾向があります。

第四楽章はオルガンのような響きで開始。ゆっくり進行する第4変奏では肘を高く上げ、弓を弦にべったりつけるベルリンフィルの弦セクションの様子が目に見えるようです。
フルートソロの終盤の13変奏から多少テンポを速めます。104小節の第1ヴァイオリン強調も印象的。

1963年録音と比べるとテンポも速まり響きもスリムで10年ほど若返った印象です。各楽章の演奏時間もフィルハーモニア管との録音に近くなっています。美しく磨き上げた吟醸酒のような音で63年盤に感じられたドイツ風の重厚感は薄らぎ、ブラームスの演奏としてはコクと余韻に欠けるように思います。

今回聴いたのは独盤LP。滑らかで上質な再生音ですが、フィルハーモニーホール特有の薄く白っぽい音が気になりました。


・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1983年8月27日、ザルツブルク祝祭大劇場    ライヴ録音)

ザルツブルク音楽祭でのライヴ録音。この年の音楽祭ではブラームスの生誕150年の記念の年で交響曲全曲が演奏されました。カラヤンの気合十分、ベルリンフィルも熱く燃えた壮絶な演奏。

第一楽章から感傷を排した速めのテンポで進行するもののテンポの揺れは大きく、オケは熱くなりながらもカラヤンは冷静、さりげない部分まで神経は張りめぐらされていて56小節1拍目のちょっとしたアクセントの生かし方など実にうまいものです。
緊張感に満ちたピアニシモの美しさも秀逸。後半ではティンパニの乱打の中で手に汗握る怒涛の盛り上がりも凄まじく、最後の小節では直前で一瞬のタメを利かせスタジオ録音よりも長めに伸ばし終結。

第二楽章も緊張感を保ちつつ完璧なアンサンブルで聴かせるのは見事ですが、第一楽章の熱気の余韻がまだ冷めないうちにあれよあれよという間に終わってしまいます。
第三楽章の348小節から352小節のホルンをテヌートで演奏させるのはカラヤンの全ての録音に共通。しなやかなリズムの奔流で聴かせつつフィナーレにアタッカで突入。

第四楽章では一転して一歩一歩着実に歩む巨人の歩み。第4変奏のすすり泣きのようなヴァイオリンのヴィヴラートもスタジオ録音では聴かれなかったもの。フルートソロのうまさは相変わらずですが、14変奏トロンボーン群のコラールを導くオーボエのソロが絶妙の間で入ります。
変奏が進むにつれ音楽が徐々に巨大になっていくのが圧巻。281小節のティンパニはトレモロに改変か?最後の小節も一瞬のタメのあと渾身のフォルティシモで長く引き伸ばしていました。

これほど燃えたカラヤンも珍しいと思います。熱くなりながらも鉄壁のアンサンブルを聴かせるベルリンフィルも見事。じっくり渋く聴かせるブラームスとは対極にある演奏ですが聴いていて興奮させられる演奏でした。

手持ちはANFから発売されていた駅売り海賊盤、ライヴ・クラシックスシリーズ中の一枚。ステレオ録音ですが広がりに欠け、レンジが狭いのが難点。


以下は、今まで紹介した4つの録音の楽章毎の演奏時間です。

     1      2      3      4
55年  12分29秒 10分54秒 6分18秒   9分48秒
63年 13分 4秒 11分30秒 6分10秒  10分15秒
77年  12分38秒 10分58秒 6分12秒   9分48秒
83年  13分 4秒 11分25秒 6分11秒  10分24秒

フィルハーモニア管の55年録音とベルリンフィルの77年第二回全集の演奏時間、そして63年の第一回全集録音と83年ライヴとの演奏時間はほぼ同じでした。
カラヤンの解釈が一定の期間で揺れ動いていたということでしょうか。
(2007.12.11)