「ブラームスの4番を聴く」27・・戦前派巨匠の時代9 フリッツ・ブッシュ
フリッツ・ブッシュ(1890 - 1951)

ヴァイオリンのアドルフ、チェロのヘルマンとともにブッシュ3兄弟の長男として主にドイツやイギリスで活躍した名指揮者。主な活動時期が第二次世界大戦と重なり残された録音も少ないため地味な存在ですが、ドレスデン国立歌劇場やイギリスのグライドボーンで音楽監督を務め、数々のオペラの歴史的な名公演をなしとげた名匠。
ブッシュはケルン音楽院でブラームスの盟友フリッツ・シュタインバッハに指揮を学びました。

ブッシュの残されたコンサートレパートリーの数少ない録音中、ブラームスは交響曲第2番と第4番、そして悲劇的序曲の録音があります。

・ウィーン交響楽団
(1950年10月15日  ウィーン 放送用録音)
ウィーン占領下のアメリカ放送局Rot-weiss-rot(赤白赤)放送局収録の聴衆なしの放送用録音。

ブラームスの交響曲第4番を初演したマイニンゲン宮廷楽団をハンス・フォン・ビューローから引き継いだフリッツ・シュタインバッハを、ブラームスは自分の作品の演奏者として最も高く評価していました。
この録音は、そのシュタインバッハ門下のスター的存在だったブッシュが指揮した、まさに「マイニンゲンの伝統」の影響を受けた演奏です。

「マイニンゲンの伝統」については境山さんのHPを参考にしました。
http://www18.ocn.ne.jp/~dirigent/abendroth_brahms.html

この中で「マイニンゲンの伝統的演奏では、正確なリズムと常に変化する柔軟性のあるテンポとは、相互協力の関係にあった」とあります。

速いテンポの中で正確なリズムを確実に刻みながら聴かせる柔軟なフレージング。ブッシュの演奏はまさにこの「マイニンゲンの伝統」にぴったりの演奏でした。緊張感漂う引き締まったオケの響きも素晴らしい時代を超えた普遍的な名演です。

第一楽章冒頭の第一音は比較的短く開始。45小節のヴァイオリンも短めで、続く第2主題もホルンを喨々と響かせながら雄大に展開していきます。終盤のクライマックスの中で、414小節めに一瞬スーッと力を抜き柔軟な変化をさりげなく聴かせるなんという心憎さ。終結部最後の2小節はテンポを落とさず、最後の音は通常よりも長めに響かせていました。

第二楽章では20小節のクラリネットの微かなポルタメントに僅かに19世紀末の名残が感じられます。再現部65小節から弦楽器の動きを彩る木管楽器の美しさも印象に残ります。
端正でスピード感あふれる第三楽章では117小節1拍めにアクセント付加、中間部のふくよかなPoco meno prestoと前後との対比も見事。

第四楽章も自由な呼吸で音楽を流しながらも常に一定のリズム感が曲を支配し、いつまでも聴いていたいと思わせる演奏でした。トスカニーニのような人を寄せ付けない厳しさとは異なり、懐かしさと温かみも感じさせるのが素晴らしいと思います。

ただ、当時のウィーン響は大戦の痛手から未だ十分に立ち直っていないようで、第四楽章冒頭のトランペットや第三楽章の一部にオケの弱さを露呈させる部分があり、これは大変惜しい。

今回聴いたのはスイスのReliefから出ていたLPです。残響少なめの幾分硬い響きで一部音が割れる箇所もありましたが、各楽器は明瞭、50年の録音としては優秀です。
(2007.08.10)