「ブラームスの4番を聴く」19・・戦前派巨匠の時代5 シューリヒトその3
今回はウィーンフィルとの最晩年のライヴを紹介します。

・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1965年4月24日 ウィーン ムジークフェライン ライヴ録音)

オーストリア放送局のアルヒーヴからCD化されたシューリヒト85才のライヴ。当日演奏されたシューベルトの交響曲第5番もカップリングされています。

遅いテンポのこってり重厚なスタイル。今まで一般的だった端麗辛口のシューリヒトの芸風とはかなり異なる演奏です。とにかく演奏の印象が他の二つの演奏と比べ同じ様ですらないのも驚きでした。これで第一楽章394小節前後のシューリヒト独特のテンポ変化がなければ、シューリヒトの演奏かどうか疑うところです。

第一楽章冒頭から大地がうねるような重厚な開始、雄大なウィンナホルンの響きで聴かせる第2主題はウィーンフィル独特のもの。91小節のヴァイオリンの嫋々たる歌い上げ、140小節の宙を漂うようなテンポ、182小節でテンポを落とす特徴はバイエルン盤でも聴かれました。258小節からの再現部の安心感と安らぎの気分も印象的。

後半は378小節あたりから熱を帯び次第にテンポを上げ、389小節の3,4番ホルンの強奏に入る直前で微妙なタメを造りながら、終盤の頂点である394小節に突入。ここでガクンとテンポを落とし、ウィーンフィルの豊麗な響きがホール全体を満たす凄愴なクライマックスを演出。

第ニ楽章冒頭ホルンが遠いのは録音に原因がありそうです。続く主題も遅いテンポで3拍めを長めに取るアゴーギク。チェロが入る第2主題からますますテンポが遅くなります。60小節への移行の遅さと83小節からのテンポの揺れは、他の二つの録音に比べると不自然。88小節からの弦楽器は陶酔の境地。終盤の冒頭回帰するホルンに伴うヴィオラとチェロの漣のような音のうねりが印象的。

第三楽章の弦楽器のトリルのチャーミングな美しさは、ウィーンフィルならではの響きですが119小節の弦楽器の後打ちはいささか鈍重。180小節からのPoco meno prestoでゆったり進行し、199小節のTempo 1のフォルティシモは轟然とした凄まじい響きで聞かせます。

豊麗にして悠然とした第四楽章は、第4変奏以降の重い荷物を強引に引きずるような動きで音楽はうねうねと進行。フルートソロ前で大きくテンポを落とし、この長いフルートソロ終了後に現れる第16変奏直前の突然の異常に長いパウゼは、まるでバッハの「フーガの技法」の未完のフーガにも似た、突然曲が断ち切られたような錯覚に陥ります。
ここで時間は一瞬停止。この息を呑むようなパウゼの後の猛烈なダッシュは、本気を出したときのウィーンフィルの凄さを思い知らされます。

聴いていていろいろと考えさせられた演奏でした。これまでの二つの録音で聴かれた速いテンポの飄々とした演奏とは異なる情熱的な火吹き系のスタイルでした。
淡白で端正と言われたシューリヒトの芸風は、どうやらごく一面を捉えただけであったようです。

今回聴いたのはAlutusから発売されているCD。1965年の録音ですがモノラル。音の鮮度も50年代前半の水準です。
(2007.06.03)