「ブラームスの4番を聴く」17・・戦前派巨匠の時代5 シューリヒト
「カール・シューリヒト(1880 - 1967)」
シューリヒトのブラームスの交響曲第4番には5つの録音があります。

・フランス国立放送管     1959年 ライヴ録音
・バイエルン放送響      1961年 スタジオ録音
・シュトゥットガルト放送響  1964年 ライヴ録音
・ウィーンフィル       1965年 ライヴ録音
・北ドイツ放送響         ?  ライヴ録音

・バイエルン放送交響楽団
(1961年9月  ミュンヘン スタジオ録音)
晩年のシューリヒトは世界最大の通販レコード会社コンサートホールソサエティに数多くの録音を残しています。それらは幸いにして全てステレオで残されました。

シューリヒトならではの速いテンポ、飄々とした中にブラームスの魅力が自然に伝わる格調高き名演奏です。禁欲的な厳しさの中に常に歌があるのも素晴らしいと思いました。1963年ACCディスク大賞受賞盤。

第一楽章では、冒頭の澄み切ったヴァイオリンの響きの中で17小節目1拍目の突然の強烈なアクセントに驚かされます。ひとつの音符に書かれたクレシェンドデクレシェンドも忠実に再現。76小節めの弦楽器へのアクセントはワルター盤と同様にテヌートで流し、第2主題は音符を明確に短めに演奏。88小節から僅かにテンポを落とし91小節の伸びやかな弦楽器に備えます。
137小節からの展開部への導入はあっさりと通り過ぎ、145小節からの冒頭を回想する部分はあくまでひそやかに演奏。227小節の移行部分は陽炎のように音楽が揺れ、冒頭の逆の音型ソ−シで始まる再現部は遅めのテンポで儚く進行。
多くの指揮者が大きく盛り上げテンポを上げる394小節の2小節前は控えめに流しながら394小節の全合奏のffは、遅いテンポで演奏させるのがユニーク。その後の猛烈なダッシュも印象に残ります。

第二楽章の速いテンポの中に漂う寂寥感は、まさにシューリヒトを聴く醍醐味。木管はアクセント強調気味で奏し21小節のホルンが入る前のテンポの落とし方も絶妙。33から35小節まででテンポを速め、管楽器のアクセントを強調させることによって41小節目からの第2主題との見事な対比を演出しています。第2主題のチェロの豊かな歌に46小節から上に被る第1ヴァイオリンの澄みわたった美しい響きは実に素晴らしく、まさに天上の音楽。
躍動感溢れる第三楽章に続く第四楽章は、冒頭コラールで変化する一音一音に3拍子感を伴いつつ前進する動きを感じさせるのが名人芸。第一変奏に入る直前のちょっとした間の休符も実に雄弁。
第3変奏の2小節目にクレシェンド付加。第14変奏のトロンボーンのコラールは、大きな膨らみ保った響きで聞かせ、184小節の第23変奏では、譜面上のf指定をpで初め、大きくカーヴを描きながら長大な盛り上がりを構築していました。

今回聴いたのは、コンサートホールソサエティからの音源流出先スイス・ミュゼクスポートの原盤から日本コロンビアが1980年に発売したOC7314というLPと、イアン・ジョーンズのリマスタリングによるSCRIBENDUMから出ていた「シューリヒト コンサートホールレコーディングス」の10枚組CDからの1枚です。

ステレオとはいえ、コンサートホールソサエティの録音の多くは潤いに欠け、高音強調型の痩せた響きのものが多いのですがこの演奏は比較的良好な部類です。両者を比べるとエネルギー感でLPが僅かに上であるものの、奥行きと細部の明瞭度ではCD盤が勝っていました。

ただしSCRIBENDUM一連のCDの中には編集に詰めの甘いものが多く、このセット中にも音符が抜けていたり、表示と曲名やオケが異なって収録されていたものがありました。
(2007.05.26)