「ブラームスの4番を聴く」16・・戦前派巨匠の時代4 ワルターその3
今回は最晩年のワルターのために組織されたコロンビア響を振ったステレオ全集中の録音を紹介します。

・コロンビア交響楽団
(1959年2月 ハリウッド アメリカンリージョンホール スタジオ録音)

厚い響きの劇的な演奏だったニューヨークフィル盤とは対照的なスタイル。透明でしなやかな響きと動きの中の適度な緊張感、一種日本的な「軽み」も感じさせる名演でした。

神秘的な出だしの第一楽章冒頭から小編成のオケの透明な響きがブラームスの書いた細かな動きを忠実に再現しています。BBC響、ニューヨークフィル盤で聴かれた75小節のテヌートはなし。96小節からのホルンとオーボエソロの自由闊達な動きが魅力的。
219小節以降のffからpへの転換も実に鮮やかで294小節めからしだいに加速し、第2主題を朗々と歌わせます。

ふくらみと深い余韻を持った第二楽章は、101小節の第一ヴァイオリン、チェロが入るちょっとした間合いも名人芸の域。
第三楽章では19小節めのヴァイオリンの下降音型でテンポをゆったり落とし、51小節からの第2主題での田園風の穏やかさが印象的。189小節ではオーボエが蕩けるようなデミヌエンドを聴かせる一方、346小節では2拍めのヴァイオリンとヴィオラの強烈なアクセントを効かせるといった具合で、実に細かな演出が至る所で聴くことができます。

終始遅めのテンポで進む第四楽章は、第1変奏のピチカートの余韻、第4、5変奏の弦楽器群の後ろ髪を引かれるようなたっぷりとした歌が印象的。第13変奏のフルートソロ前の4小節はpp指定をmpとして、じっくり聴かせます。
ブラームスが細かく書き分けたクレシェンド、デクレシェンドの増減の匙加減が実に絶妙です。213小節では、内声部の3番ホルンの強調をしつつ大きくテンポを落とす独特の表現で聴かせていました。

ただ自分自身の個人的な好みから言えば、このフィナーレは味わい深い出来であるものの、もう少し深く抉るようなデモーニッシュさも欲しいところです。
ともあれブラームスがこの曲に籠めた詠嘆と諦めを、軟弱さと枯れた気分を感じさせずに高度な次元で昇華させた名演だと思います。

今回聴いたのはオーストリアCBSのCDです。無色透明な無難な再生音。
(2007.05.20)