「ブラームスの4番を聴く」38・・・・独墺系の指揮者たち4 カイルベルトその2
・バンベルク交響楽団
(1968年5月20日 東京 東京文化会館    ライヴ録音)

カイルベルト最後の来日公演となった貴重な記録。この2ヵ月後、カイルベルトは「トリスタンとイゾルデ」の指揮途中で巨木が倒れるように急逝してしまいます。
スタジオ録音と同様の恰幅の良さの中に、実演特有の即興的な動きと熱気が加わった演奏でした。

第一楽章冒頭から力の抜けた自然体の開始。さりとて無為無策ということではなく5小節目でバスを僅かに強調し音楽にふくらみと広がりを持たせるところが並の指揮者と違うところです。大きなテンポの動きもなく悠然と進行。再現部に入り278小節から音楽が揺れはじめます。

第二楽章は30小節めから大きく加速します。即興的なテンポの変化にオケが着いてゆけない部分もあり39小節のホルンのシンコペーションの乱れから弦楽器と管楽器にズレが生じますが、些細な事は気にせず直立する不動明王の如き確信に満ちた音楽が鳴り響くのが圧巻。第2主題のチェロにからむヴァイオリンの美しさも印象的。
このあたりから次第に指揮者もオケも熱くなり始め、音楽に緊張感が出てきました。

第三楽章の34小節からはティンパニが轟然とクレシェンドを聴かせ、第2主題のフレーズの頭にアクセントをつけ躍動感を演出。中間部の189小節にわずかなルバートを利かせ終結部311、313小節のトランペットのffを強調。
豪快に突き進む第四楽章でも指揮者もオケも気合充分。ところがオケに疲れが見えてきました。特にホルンは苦しげです。278小節から弦楽器と管楽器がずれて進行しますが、ここまで来ると巨匠の貫禄で一気に最後までなだれ込みます。

終盤でオケが熱くなりすぎてアンサンブルがラフになってしまいましたが、感興の趣くままの即興的な動きの中に巨匠の風格が感じられる魅力的な演奏でした。終演後の客席の熱狂も凄いものです。

今回聴いたのはNHKの放送音源からキングレコードがCD化したものとFKMから出ていた裏青の海賊盤CD−R。
NHK音源の正規盤は安心して聴ける再生音ですが客席ノイズを除去してあり、ノイズと一緒に音楽の成分も多少飛んでしまったような印象です。裏青のブートレグ盤はFMからのエアチェック盤のようです。音が粗く暴れていますが実演らしい生々しさを感じさせ捨て難いものがありました。
(2007.12.22)