「ブラームスの4番を聴く」37・・・・独墺系の指揮者たち4 カイルベルト
「ヨゼフ・カイルベルト(1908 - 1968)

ドイツのカールスルーエ生まれ、17才でカールスルーエ国立歌劇場の練習指揮者として出発、カールスルーエの総監督の後バーデン国立歌劇場の音楽監督。1945年ドレスデン国立歌劇場音楽監督、バンベルク響の主席指揮者。ハンブルクフィルやバイエルン国立歌劇場の音楽監督を歴任。N響名誉指揮者。
1968年、ミュンヘンで「トリスタンとイゾルデ」の指揮途中に心臓発作に襲われ急逝。

カイルベルトのブラームスは、50年代から60年代初めにかけてドイツのテルデック(テレフンケン)に交響曲の全曲録音があります。

第1番:ベルリンフィル
第2番:ベルリンフィル
第3番:バンベルク響
第4番:ハンブルクフィル

第4番には以下の2つの録音があります。
・ハンブルクフィル      1960年? スタジオ録音
・バンベルク響        1968年  ライヴ録音

バンベルク響とのライヴ録音は、カイルベルトの死の直前の来日公演ライヴ録音です。

・ハンブルクフィルハーモニー管弦楽団
(1960年ころ  ハンブルク   スタジオ録音)

ハンブルクフィルはブラームスの生地ハンブルクの州立歌劇場のオーケストラで、ブラームス自身も交響曲第2番を指揮しています。

質実剛健、重厚なドイツ音楽の権化のような演奏を聴かせるカイルベルト。この演奏も速いテンポで軽やかに流れる中にアウトバーンをベンツに乗って走行しているような安定感があります。素朴な暖かさと強い意志の力、そして豊かな風格も感じられるのが素晴らしいと思います。

第一楽章冒頭は素っ気無いほど自然体の開始。よく見ると楽譜には管楽器にdolceと書いてあるだけで表情記号な何も書いてありません。35小節めのバスの安定した動きと274小節からの再現部の第一ヴァイオリンの跳ね上げるような扱いが特徴的。終結部の導入となる380小節の弦楽器のスタッカートを強いアクセントとして終盤415小節からの大きな盛り上がりを演出。

第二楽章冒頭のホルンは短くアクセント気味に演奏させます。それを受け継ぐファゴットのppへの自然な減衰も見事。速いテンポでサラリと進む中で中間部の80小節めからは管楽器をファンファーレーのように激しく演奏させテンポアップ。緊迫感が頂点に達した直後一転して88小節からじっくりと弦楽器を歌わせる対比も見事。101小節4拍めのpはfに改変。

続くホルンの咆哮が印象的な第三楽章はガツンとした男の音楽。第四楽章は軽やかで全篇舞曲のように展開し、シャコンヌというよりも優雅なサラバンドのような趣。第6変奏からしだいに加速。終盤274小節からのトロンボーンのマルカートをこれほどはっきり演奏した演奏も珍しいと思います。

各所で聞かれる細かな仕掛けは全て周到に計算されている堅実な職人技が光る演奏です。
控えめでいて作曲者への畏敬の念が自然に伝わり、大樹の陰に身を寄せるような暖かな安心感がなんとも魅力的な演奏でした。

緊迫感に満ちた同年同月生まれのカラヤンの演奏を続けて聴いた後だけに、カイルベルトの演奏を聴いてほっとしたというのが正直なところです。

今回聴いたのは、ワーナージャパンから出ていたテルデック原盤のCDと70年代初頭に出ていた日本キングの廉価盤国内LPです。

ステレオ初期の古い録音でレンジも狭いもので、マスターテープの劣化も相当進んでいるようです。CDでは楽器は明瞭ですがリマスターによって滋味や旨みが飛んでしまった印象。
一方の70年代のマスターテープの状態で固定されているLPは、音の劣化はさほど感じず広がりも自然ですが、LP片面に全曲を詰め込んでしまったためにダイナミックレンジが狭くなってしまいました。特に内周部分は苦しい音です。これは初出当初のオリジナルLPを聴きたいところです。
((2007.12.15))