新「第九を聴く」5 ピリオド系の指揮者たち2・・・・ブリュッヘン
「フランス・ブリュッヘン(1934 - )」

アムステルダム生まれ、アムステルダム音楽院、アムステルダム大学に学ぶ。
21歳で王立ハーグ音楽院教授。1950年代からリコーダー走者として活躍。
古楽器奏者の草分け的存在で、リコーダー奏者としてかなりの録音があります。
1981年に古楽器による18世紀オーケストラを結成。そのデビュー版であるモーツァルトとベートーヴェンのディスクは古楽器オーケストラの演奏としては衝撃的な反響を与えました。

・ 18世紀オーケストラ 、リスボン・グルベキアン合唱団
S: L.ドーソン、Con: J.ネス、T: A.R.ジョンソン、Bs: E.W.シュルテ
(1992年11月8、11日 ユトレヒト   ライヴ録音)

フィリップスへのベートーヴェン交響曲全集中の一枚。
落ち着きのあるしっとりとした演奏。ヴィヴラートなしの弦楽器による透明さは感じられますが、無色透明ではなく幾分飴色の渋い音色がレンブラントの作品を連想させます。
使用楽譜はブライトコップ版が基本のようですが、第1楽章51,56小節のフルートの1オクターヴ上げや第3楽章の53小節の1拍目の第1ヴァイオリンのCをD音とするなど一部ベーレンライター版と共通する部分もあります。

第1楽章の81小節のフルートはC音、300小節のティンパニは16分音符でなく8分音符のブライトコップ版と同じ型。振幅の大きな巨大な音楽が315小節からのクライマックスで炸裂。469小節の第1ホルンソロ前には微妙な間が入ります。

躍動感に満ちた第2楽章はリピートを全て実施。フレーズの最後にすスーと力を抜くのが印象的。トリオ直前のPrestoではトロンボーンを強調、続くトリオも聴いていて愉快になるような快調なテンポ運び。503小節からのヴァイオリンのタイはなし。

第3楽章はこの演奏中最も美しい演奏でした。112小節一拍目の4番ホルンのEsは省略。
第4楽章ではチェロ、コントラバスの響きが溶け合った表情豊かな響きが印象的。55小節目の後フェルマータはなし、92小節でも間を空けずに歓喜の歌に突入しています。
115小節から2番ファゴットはチェロに重ね、合唱は小編成ながら強力なアンサンブルを披露、259小節で音量を一端弱め285小節からアクセント気味にして語句を強調。
Vor Gott!のフェルマータは、合唱・オケ全体がffで絶叫する中ティンパニのみが虚しくデミヌエンドするブライトコップの型。ここは合唱の響きの明確さが欲しかったのでしょうか。

Alla marciaでは大太鼓とシンバルが一体となった短めのボッ、ボッとした音に乗りテノールがロマンティックに歌います。525小節からの第1,2番ホルンの経過句もブライトコプ型。二重フーガは速いテンポで進行し806小節ではティンパニを強調。終盤970小節のプレスティシモは遅めのテンポ。

木の温もりを感じさせるような手造りの味わい、ロマンティックで自由な呼吸が感じられる素晴らしい演奏だと思います。ただしブリュッヘンの多くの演奏で感じられるデモーニッシュさは感じられず、18世紀オーケストラのデビュー盤となったベートーヴェンの交響曲第1番のような鮮烈なインパクト感は希薄です。
(2006.11.16)