「新世界よりを聴く」90・・・プレヴィンとマッケラス
アンドレ・プレヴィン(1929 - )

ベルリンに生まれる。ベルリン高等音楽院、パリ音楽院で学んだ後にカリフォルニアに移住。その後モントゥーに指揮を学ぶ。1940年代からMGM映画の音楽監督として作曲家・ジャズピアニストとして活躍し、映画音楽では4回オスカーを受賞、ジャズピアニストとしても数多くの名盤を録音しています。

1963年にセントルイス交響楽団を振って指揮デビュー後はクラシック音楽界に転じ、ヒューストン響、ロンドン響、ピッツバーグ響、ロイヤルフィル、ロスアンジェルスフィルの音楽監督、首席指揮者を歴任。現在オスロフィルの音楽監督。

・ ロスアンジェルスフィルハーモニック
(1990年4月  UCLAメイソンホール   スタジオ録音)

ロスフィル音楽監督時代のテラークへの録音。譜面に極めて忠実であるもののジェントルでカロリー低めの演奏でした。民族的色彩は皆無。

第1楽章序奏のティンパニの音がピシリと決まった大きな音なので彫りの深い演奏となるかと思いましたが、主部からは遅いテンポでごく普通に展開。序奏のティンパニは1発打ち、66小節めから少しずつ速め第2主題はBABA型のスプラフォン版。
リピートなし。オケのオルガンのような均一の響きが印象的ですが、これはテラーク特有の音の採り方に原因があるかもしれません。

第2楽章冒頭コラールのティンパニはpで叩かせ、最初のffが過ぎ去った後の25小節めでは、管楽器を自然に減衰させながらスーと自然に弦楽器の音量を増加させる絶妙のバランスで聴かせます。第4楽章ではヴィオラのきざみから次第に盛り上がる180小節からの木管楽器の動きが明快で227小節のin tempoではには大きな広がりを感じさせていました。

美しい演奏で余裕と落ち着きは感じられるものの、まとまりすぎて音量とテンポの変化に乏しい平板な演奏でした。プレヴィンとしては平凡な出来だと思います。


サー・チャールズ・マッケラス(1925 - )

アメリカ生まれ、2才のとき両親の故郷であるオーストラリアに移り、シドニーでオーボエを学びシドニー響の首席オーボエ奏者の後、チェコに留学し名指揮者ターリヒに師事。ハンブルク国立歌劇場の指揮者を経て、サドラーズ・ウエルズオペラの音楽監督、BBC響の首席客演指揮者。

マッケラスの「新世界より」は二つの録音があります。

・1990年  ロンドンフィル  スタジオ録音
・2005年  プラハ響     ライヴ録音

2005年盤はマッケラスの80才を祝賀するコンサートライヴ。

・ ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
(1990年                スタジオ録音)

端正でスタイリッシュな中に民族的な味わいを漂わせた名演。師匠のターリヒの影響が随所で聴かれます。

第1楽章序奏22小節めのティンパニは1発打ち。経過主題の10小節前で微妙にテンポを落とし、第2主題は速めのテンポでさらりと流します。この第2主題はBBBB型でチェコフィルの使用版と同じものです。リピートなし。
第2楽章も正確無比にして必要にして充分な歌、曲想の変化する部分では微妙にテンポを落とし第3楽章のリピート後少し遅めにするなど、譜面にない独自のテンポ運びを見せますが、音楽は停滞せず自然に流れていきます。

第4楽章では91小節の行進曲風の部分で、2番ホルンの4分音符の動きを強調するのが珍しく、154小節からじわりじわりと緊張感を増し、テンポの自然な緩急を見せながら大きな山場を築き上げるのが実に老練。
251小節のUn poco sosutenutoは早く駆け抜け、第2楽章コラール再現部分のティンパニの強打の後307小節でホルンだけがfffで残るのはターリヒと同じ解釈。

全てを知り尽くした熟練の職人芸を堪能しました。派手さはないが聴くほどに味のある名演。プラハ響とのライヴ録音が聴きたくなってきました。
(2006.02.22)