「新世界よりを聴く」75・・・イギリスの指揮者たち4 コリン・デーヴィス
「サー・コリン・デーヴィス(1927 - )」

イギリスのウェイブリッジ生まれ、王立音楽院でクラリネットを学びましたが、ピアノができず指揮科に入学できなかったそうです。
1957年にBBCスコティッシュ響の副指揮者。クレンペラーやビーチャムの急病による代役で注目され、1959年 - 1965年サドラーズ・ウェールズオペラの音楽監督。その後BBC響やバイエルン放送響、ロンドン響の首席指揮者を歴任。

デーヴィスの「新世界より」は、ロイヤルコンセルトヘボウ管とロンドン響との録音があります。

・ロイヤルコンセルトヘボウ管  1977年  スタジオ録音
・ロンドン響          2002年  ライヴ録音

・ ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団
(1979年   アムステルダム コンセルトヘボウ スタジオ録音)

堅実で地味なイメージのコリン・デーヴィスの名が一躍注目されはじめたのは、1976年のコンセルトヘボウ管を振った「春の祭典」の名演によってからだったと思います。
このドヴォルザークはそのような時期に録音されました。

軽いフットワークでオケをのびのびと歌わせた演奏で、その中に悲愴感にも似た哀愁が漂う不思議な演奏でした。柔らかでバランスの良いオケの響きも印象的。

第1楽章序奏ティンパニは2段打ち、第2主題はAABB型のジムロック版使用、リピート有り。楽譜に極めて忠実で、終結部のティンパニのトレモロも小節毎にきっちりと叩き分けています。ただ最後の数小節でいきなりテンポを速めるのは不自然に感じました。
第3楽章では、235 - 6小節のトランペットをフルートに重ね、ダカーポ119小節2拍めのトランペットのアクセントを強調しています。

第4楽章では、しなやかに横に流れる整然としたアンサンブルのオケが素晴らしく、弦楽器に主題が移る34小節めのティンパニの前打音も明確。終盤332小節めUn poco meno mossoを早いテンポで駆け抜けるのが特徴的。

デーヴィスの演奏を聴いていていつも感じるのは、言いたいことが非常に解りやすい演奏だということです。実演で聴いた時も、この人の棒だったらさぞ演奏者も安心して演奏できるだろうなという印象を持ちました。

この演奏もそんな指揮者の懐の深さを感じさせ、聴いて安心の名演奏でした。
今回聴いたのはフィリップスから出た国内盤CDです。柔らかで音楽的な優秀録音。

・ ロンドン交響楽団
(2002年9月  ロンドン バービカンセンター ライヴ録音)

ロンドン響自主録音シリーズのライヴ録音。
デーヴィスの確信に満ちた解釈、旧盤を上回る風格豊かな正統派の名演。ロンドン響の鍛え抜かれた技も光ります。

演奏会場のバービンカンセンターはある特定の周波数が強調されるようで、第3楽章の33、35小節のティンパニのシの音がまるでコントバスの重低音のように共鳴していました。これがまた効果的に響くのが面白いと思います。

第1楽章序奏ティンパニトレモロは2段打ち、第2主題はBABA型のスプラフォン新版。
主部に入ると躍動感溢れオケも透明な響きでかっちりと鳴り響きます。第2主題の弦楽器にちょっとルバートをかけ410小節のティンパニにはクレシェンド付加。

しみじみ聴かせる第2楽章では30小節めの弦楽器の表情の細かさとmenoのひそやかさが秀逸。コールアングレが後半で登場する部分の110小節めでは、コールアングレの最初の音に被るトランペットの和音が正確無比にぴったりと決まっています。
曲全体でティンパニが抜群の冴えを聞かせ、ffでは全体の響きの中で目立たず音響の支え各に徹し、fffになると俄然前面に出てくるといった絶妙なバランスで聞かせます。各所で譜面にない加筆も聴かれ、第3楽章の129小節ではデクレシェンド、196小節の1拍目の一発、第4楽章の250小節のUn poco sosutenutoの木管楽器の歌部分にティンパニのトレモロ、299小節にもティンパニクレシェンド付加。

スピード感とスケールの大きさを合わせ持ち、響きも透明度の高い結晶化された、まさに純音楽的な名演。
(2005.12.18)