「新世界よりを聴く」68・・・ルーマニアの指揮者たち2 シルヴェストリ
「コンスタンチン・シルヴェストリ(1913 - 1969)」

ルーマニアのブカレスト生まれ。10才でピアニストデビュー、その後ブカレストフィルやブカレストオペラの指揮者として主に東欧圏で活躍、1957年にフランスを経て西側に活動の場を移し、イギリスのボーンマス交響楽団の首席指揮者(1961 - 1969)。
シルヴェストリの演奏は、その場のインスピレーションによる個性的な解釈で知られ、N響に客演した時も楽員の間では賛否両論があったそうです。

シルヴェストリの「新世界より」は2種類のスタジオ録音があります。

・1957年  フランス国立放送管 モノラル・スタジオ録音
・1959年  フランス国立放送管 ステレオ・スタジオ録音

両方ともEMI系のフランス・パテ・マルコニへの録音で、1957年はモノラルで1959年はステレオ再録音。EMIの本国イギリスでは1955年からステレオ録音が開始されていますが、フランスではステレオの導入が遅れました。

1957年の第一回目録音はフランスのADFディスク大賞を受賞しています。1959年再録音盤も初出時はモノラルだったかもしれません。この2つの録音は長い間混同されていて、国内盤初出LPでは1959年録音にもディスク大賞受賞表示がされていたそうです。1959年録音の国内盤初出CD(TOCE7257)もモノラル盤の録音データが記載されています。

・ フランス国立放送局管弦楽団
(1959年10月20 - 23日 パリ ワグラムザール スタジオ録音)

シルヴェストリの代表的な演奏として最も著名な録音。ロマンティックな芸風、爆演系の指揮者として名高いシルヴェストリですが、この「新世界より」は比較的大きなユレや恣意的な解釈も少なく、早いテンポで進めたストレートな演奏です。

第1楽章序奏は、一歩一歩呼吸を置く確実な歩み、序奏ティンパニトレモロは2段打ち。
第2主題はAABB型のジムロック版。主部は早いテンポで大きな変化もなく進行、経過主題も早く、インテンポで進めますが時折暴走して前のめりになる瞬間があります。
第2楽章コラールが軽い響きなのはフランスの金管楽器の特性でしょうか、この当時のフランス国立放送管の演奏映像を見たことがありますが、小型のフレンチチューバや細身のトロンボーンを使用していたと記憶しています。自然とチェコフィルなどで使用している大型のチューバとは響きの質が変わってくると思います。
46小節のun poco più mossoの揺れは即興の妙が光ります。118小節からのmenoではチェロの刻みに強いアクセントをつけますが、同じ解釈のスメターチェク盤と比べると作為が感じられ音楽の流れが停滞している趣です。最後のコントラバスの伸ばし直前122 - 3小節で弦楽器の低音部から高音部への上昇音型はポルタメント気味。

後半は、爆裂系のシルヴェストリの面目躍如たる演奏。第3楽章の中間部のようにテンポを落しロマンティックに歌わせる部分はありますが、続くコーダからフィナーレにかけては一定のテンポ感で豪快に突っ走ります。フィナーレの金管の咆哮、オケの感情移入も半端でありません。まさに手に汗握る熱演でした。このウソのない単純明快さが爽やかさも感じさせます。

今回聴いたのは、セラフィムの廉価盤LP(EAC30061)、国内初出CD(TOCE7257)と、その後リマスタリングされて再発された「幻の名盤を求めて」シリーズの2枚組CD(TOCE9245-6 Yoshio Okazaki氏によるリマスタリング)の3種類です。

ステレオ初期の録音ですが音質は良好。LPは大きな広がりと音の力強さで優れる一方、楽器の定位に甘さがあり、TOCE7257はクリアですが薄い響きの高音強調タイプ、ヒスノイズも大きめです。
TOCE9245-6は、第3楽章のトライアングルも鮮やかに再生され、弦楽器の響きにも落ち着きが感じられる再生音でこの3種の中ではベストでした。
第3楽章の始めに椅子のきしむギッという音が入っていますが、LPではほとんど聴こえず、TOCE7257は金属製の椅子のような音、TOCE9245-6は木製の椅子のようなウェットの音でした。音楽には全く関係ありませんが、ちょっと気になりました。

・ フランス国立放送局管弦楽団
(1957年7月9,12日  パリ  スタジオ録音)

1957年ADFディスク大賞受賞盤、シルヴェストリの「新世界より」の第1回録音です。解釈は再録音よりもより直線的で早いテンポ、特に第3楽章で顕著です。

モノラルとはいえ1959年盤よりも残響が少なく響きの質も異なります。おそらく別のホールか録音用スタジオでの録音。以下は両盤の演奏時間です。

1957年 @7:31 A11:24 B7:22 C10:14 合計36:31
1959年 @8:48 A13:26 B7:57 C10:44 合計41:05

僅か2年の録音年の隔たりですが、細かな部分でかなり変化があります。
第1楽章序奏22小節めのティンパニは両盤とも2段打ちですが、1959年盤は、はじめの1音が単発でダン・ドロドロドロに対して、当録音はトレモロの2回叩き分けでドロロ・ドロドロドロです。経過主題の2小節前から突然早め、経過主題から第2主題にかけてかなり早いテンポ、第2主題AABB型のジムロック版。後半の叩きつけるようなフォルテが印象的。

第2楽章金管コラールは、こちらの方がヴィヴラート顕著なフランス風。コールアングレソロは早いテンポでさらりと仕上げ、続く弦楽器の主題の末尾をちょいとテンポ上げ気味の即興的で洒落た表現も見せます。90小節からのオーボエの早いパッセージの2小節前の寂しき減速も秀逸。終末のコラール直前の弦楽器上昇音型はこちらもポルタメント付加。

第3楽章は再録盤以上に早いテンポ、弦楽器の刻みの揺れを伴う余韻は、1959年盤の方がうまくいっています。192小節からのワルツ風の部分は2拍めのウラに微妙な間をおきますが、これは当盤のみの解釈。
第4楽章では序奏は早いが主題部部分はテンポを落し、持ち上げては落とし込むような表現。91小節からはトランペットのファンファーレと伴に勇壮な行進曲を展開。229小節のin tempoでのチェロの牧歌的な穏やかな表現。280小節からの凄いスピードアップ、ホルンソリ1拍前ティンパニの2つの音で微妙なタメを作るのは名人芸。

ディスク大賞を受賞しただけあって、単純な迫力だけで押す演奏とは一線を画します。
ただ完成度はステレオ再録音の方が上だと思います。シルヴェストリ自身もステレオ盤を上位に置いていました。そのことに関しては来日時のインタヴューがあります。

http://homepage3.nifty.com/thevet/ltbbs16.html#182

今回聴いたのはモノラル英盤LPです(ALP1550)。
ステレオカートリッジで聴くと硬く鈍い音ですが、モノラルカートリッジに変えたら音が引き締まりました。
(2005.11.26)