「新世界よりを聴く」33・・ホーレンシュタイン
「ヤッシャ・ホーレンシュタイン(1898 - 1973)」
ウクライナのキエフ生まれ、6歳でウィーンに移住し教育はウィーンで受けています。
1925年からフルトヴェングラーとともにベルリンフィルの指揮者陣に名を連ねるも、ユダヤ系のため国外に移ります。パレスチナ響の指揮者をトスカニーニと供に務めましたが、その後は一定のポストにつかず主に客演の日々を過ごしました。

ホーレンシュタインには三つの「新世界より」の録音があります。
・ウィーン響      1952年      スタジオ録音
・フランス国立放送局管 1954年      ライヴ録音   未発売
・ロイヤルフィル    1962年      スタジオ録音

今回は二つのスタジオ録音を紹介します。

・ ウィーン交響楽団
(1952年   ウィーン スタジオ録音)
第二次世界大戦終了直後から60年ころまでの占領下のウィーンで、ヴァンガードやヴォックス、ウエストミンスターなどのアメリカのマイナーレーベルが、安いギャラでウィーンの音楽家たちを起用しての多量の録音をおこないました。
この録音もホーレンシュタインがウィーンに乗り込み、50年代アメリカのヴォックスレーベルに集中的に行った録音。

飄々として枯れた趣を見せる一面もありますが、テンポの揺れの幅が大きく、時として激烈な盛り上がりを見せる毒のある演奏でした。
ジムロック版使用、第1楽章序奏のティンパニのトレモロは叩き分けの2発型。

第1楽章主部の速い音楽の流れの中に240小節目での自然なテンポの落ち、第3楽章63小節めのファゴットソロ突入直前の木管楽器の微妙な揺れなどの独特の解釈を見せます。
第4楽章の92小節めからの急なテンポの変化や、中間部のチェロに余韻の欠ける部分が不自然なぎこちなさが感じられます。

オケも序奏部10小節のホルンが多少フライング気味だったり、第3楽章リピート前でチェロの飛び出す箇所があるなど、いささか粗製濫造気味の感あり。

このような中、第2楽章が極めて遅いテンポでありながら、息の長いフレーズのロマンティックな歌わせ方に、ホーレンシュタインの手馴れた熟練の技が感じられ不思議な魅力を感じました。

今回聴いたのはVOXから出ている組み物CDです。
残響少な目の汁気のない随分と干からびた音。


・ ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団
(1962年1月26 - 30日ロンドン ウォルサムストウタウンホール スタジオ録音)
通販専用のレーベル、リーダーズダイジェストへの録音。現在チェスキーレコードからCDが出ています。

オケを思い切り鳴らしながら、ハメをはずさない大きな振幅の巨匠の芸。ジムロック版使用。

第1楽章序奏10小節のティンパニが早めに出るのは旧盤と同じですが、ホルンの飛び出しはなし。22小節のトレモロも2度打ち。快適なテンポで進む主部では、合間に見せるホルンのアクセントが心地良く決まっています。余韻を持ちつつ豊かに歌う弦楽器、第2主題の微妙にテンポを落しながらロマンティックに歌うのも印象的。

第2楽章で大きくテンポは揺れ、緊張感に満ちたピアニシモの中コールアングレと弦楽器のバランスの良さはホーレンシュタインの素晴らしい耳の良さの証明。
早いテンポで軽やかな第3楽章は、トリオで自由に木管楽器が遊びますが、コーダで雰囲気が一変、ホルンの戦闘的なフォルティシモが驚かされます。
続く第4楽章は恐怖感を感じさせるような怒れる音楽。91小節目からはぐっとテンポを落し144,6小節でホルンが絶叫。終盤までインテンポで突き進む中、咆哮するブラスの輝かしき音、オケもノリノリの何か憑かれたような一心不乱の演奏でした。

今回聴いたのはフランスRCAのゴールドシールのLPです。
録音は実に鮮明ですが、音の揺れが気になります。


(2005.09.03)