「新世界よりを聴く」28・・・戦前派巨匠の演奏4 ストコフスキーその5
今回は、ストコフスキーの最後の「新世界」録音を紹介します。

・ニューフィルハーモニア管弦楽団
(1973年7月2,4日 ロンドン    スタジオ録音)
91歳のストコフスキーの、そして実に25年ぶりの再録音。造形の確かさと音楽の流れの自然さでとても90過ぎの老人とは思えない演奏です。
ただ旧録音に比べると遅いテンポと重いダブついた響きが、やや老いを感じさせなくもありません。

第1楽章序奏のティンパニは、2段打ちで4分音符からトレモロ。第2主題直前でテンポをごく自然に落とすのが印象的。劇的な終結部ではトランペットとホルンはトリルで咆哮。第2楽章では終結部のコラール前、ファーストヴァイオリンのppをfに改変。
終結部はヴァイオリンが長く最後までのばす中にコントラバスが入ります。

第3楽章では最初のリピートをカット。第4楽章では第1主題の1回目はトランペットを休ませホルンのみ、2回目はホルンを休ませトランペットのみといった独特の改変があります。後半のホルンソリにこちらもドラを加え、305、331小節にシンバルを叩かせているのはいつものストコ節。

今回聴いてはじめて気がついたのですが、細かなところで実に緻密な計算の糸が張り巡らされていました。
この曲で同じ旋律が再び現れる場合、ドヴォルザークは必ず多少の変化をつけていますが、、ストコフスキーの場合はさらに木管楽器のトリルを付加するなどの細かい表情付けがあります。
さらに凄いのはこの曲でしばし出てくるフルートとオーボエのユニゾン。ここでストコフスキーはふたつの楽器のバランスを秒単位!で微妙な変化を付け、万華鏡のような色彩感を演出していました。まさに音の魔術師ストコフスキーの面目躍如。

私の手元にこの演奏の2種の国内盤LPがあります。ひとつはLP末期1981年プレスのRCL規格廉価盤LP、もうひとつは1927年録音との2枚組SRA規格のLP、こちらは1974年プレスと書いてあります。
同じビクターの発売なので、同じマスターテープ使った同じカッティングとプレスだと思いましたが。聴いて全然違う音だったので驚きました。
音の力、明瞭度、奥行き全てSRA規格が上で、RCLの方は音が水っぽくふやけた音。

両盤のマトリックス番号(LPのレーベルと溝の間に刻印された記号番号)を覗き込んでみると異なる番号でした。どうやらマスターテープそのものが異なるようです。
RCL盤はオリジナルから相当の回数のコピーを経たマスターテープを使用したと思われます。


(2005.08.22)