「新世界よりを聴く」92・・・アバド
クラウディオ・アバド(1933 -    )

アバドの実演は2度聴きました。一度はウィーンフィルの来日公演で、モーツァルトの交響曲第29番とブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」というプログラム。
2度目はベルリンフィルとの来日公演で楽劇「トリスタンとイゾルデ」の全曲公演。

ウィーンフィルの時は、ウィーンフィルに下駄を預けて自然に流した趣で、美しい演奏であったもののさほど印象に残っていません。その時は席の隣にハーピストの吉野直子さん一家がいて、そちらに気を取られてしまいました。

「トリスタンとイゾルデ」はアバドが病に倒れ来日が危惧されていた時の公演。
オケピットに登場したげっそり痩せたアバドの容貌を見て、全曲振り切れるか心配になりましたが、張り詰めた緊張感の中に完全に昇華された透明な音楽が最後までトウトウと流れていき大きな感銘を受けました。

「新世界より」にはベルリンフィルの音楽監督時代の演奏が2種類あります。

・1997年    ライヴ録音
・2002年    ライヴ映像

2002年は、ベルリンフィルのヨーロッパコンサートの映像でDVDでも出ています。

・ ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1997年 5月   ベルリンフィルハーモニー     ライヴ録音)

ベルリンフィル音楽監督時代のドイツグラモフォンへのライヴ録音。
冷静で落ち着きのある静かなる演奏、民族的な色彩は皆無の純音楽的名演。

第1楽章序奏ティンパニは1発打ちで第2主題はBABA型のスプラフォン版。
経過主題のデリケートな表情が印象的で、張り詰めた緊張感の中に音楽が自然に流れていきます。テンポの動きはほとんどありませんが最後の438小節目で微妙に落します。

第2楽章も透明な響きの中さらりと流し、第4楽章はアタッカで切れ目なく開始、序奏は速めだが主部に入るとテンポを落して主題を朗々と歌わせます。全体の響きは密度が濃く重心も低めですが、重々しさを感じさせないのはアバドの自然なテンポ運びのためだと思います。

オケのピッチがぴたりと合いバランスも完璧。154小節のヴィオラの単調な動きからじわりじわりと盛り上がり210小節めで最高潮に達する部分は興奮しました。

録音は優秀なデジタル録音ですが、第3楽章の41小節からのホルンや第4楽章の330小節以降のティンパニがほとんど聴こえないのが不思議。

なお。このアルバムのカップリングされているドヴォルザークの序曲「オテロ」は「新世界より」を上回る非常な名演。
(2006.03.04)