「幻想交響曲を聴く」28・・・スワロフスキー

ハンス・スワロフスキー(1899 - 1975)
ブタペスト生まれ、シェーンベルク、ウェーベルンに作曲を、ワインガルトナーとR.シュトラウスに指揮を学ぶ。シュトゥットガルト、ハンブルクなどドイツの主要な歌劇場の指揮者を歴任、1934年ベルリン国立歌劇場の音楽監督、1940年ザルツブルク音楽祭総監督。
1946年からウィーン音楽アカデミーの指揮法と音楽理論の教授の地位にあり、アバド、メータ、シノーポリ、ヴァンデルノートらを指導。

名教師が必ずしも名演奏家でない例として、よくスワロフスキーの名が引き合いに出されます。正直なところ私もスワロフスキーの演奏で名演奏に出会ったためしはありません。
1973年の来日時、N響との「エロイカ」第1楽章のリハーサルでは、N響の演奏に指揮がやっとついていくありさまで、だんだんと遅くなり、ついにスローワルツのようになってしまったそうです。見るに見かねたコンマスが、「指揮を見ずに私を見てください」と言ったというエピソードが残っています。

録音はかなりの数がありますが、その大部分は怪しげなマイナーレーベルで、実際にスワロフスキーの指揮でないものまで、スワロフスキーの名で出たりしているため、どうもその実体はつかめません。

・南ドイツフィルハーモニー管絃楽団
(録音時期不明   スタジオ録音)
CD初期に学研から発売されたシリーズ中の1枚。
狂気と暗さが全編に渡って支配された異様な演奏。ベルリオーズの音楽が、まるでベルクかシェーンベルクのような革新性を持って響きます

止まりそうなほどゆっくりと始まる第1楽章の序奏、ここぞというところでオヨヨと泣き崩れる情緒豊かなヴァイオリン。テンポの動きは少なく、静的な不気味さが全曲を支配。
ほの暗いロマンを感じさせる第2楽章など、まるでシベリウスの「悲しきワルツ」を聴くようです。

冒頭ホルンミュート使用の第4楽章はあっさりと終わりますが、大地を揺るがす大太鼓の響きが印象的。
不気味さますます増幅の第5楽章では、「怒りの日」の鐘に数台のピアノを重ね、グワーン・グワワーアンと巨大な音響が響き渡ります。
指揮者が懸命にオケを煽るも全然鳴らないオケ、あちらこちらでアンサンブルにほころび発生、ガタピシときしみ始めるオーケストラ。クラソロの異常に遅いのは、オケの実力に合わせたのかも。
これほど怪奇でグロテスクな演奏は他に無く、プロフェッサータイプのスワロフスキーからは想像もできない天下の奇演。

この演奏は、書店売りのデ・アゴスティーニから出ていたクラシック・コレクションシリーズ、アルベルト・リュッツォ指揮南ドイツフィルの演奏と同一でした。リュッツォは、ヘンリー・アドルフ、カルロス・パンタリと並んで、実在しない幽霊指揮者の代表格。ちょっと謎の多いCDです。


(2004.08.20)