「幻想交響曲を聴く」56・・・プレヴィンとコシュラー

アンドレ・プレヴィン(1929 - )
現在ロンドンフィルの桂冠指揮者にして、オスロフィルの音楽監督であるプレヴィンには、イギリスを本拠地としていた時代に2つの録音があります。

・ロンドン響    1976年  スタジオ録音
・ロイヤルフィル  1991年  スタジオ映像
・ロイヤルフィル  1991年  スタジオ録音

・ロンドン交響楽団
(1976年   ロンドン アヴィーロードスタジオ スタジオ録音)
甘くていながらべとつかず爽やか、明快でスピーディさも感じさせる好演。
第1楽章リピート有り、冒頭のスタッカートは明確ですが、続く柔らかな弦楽器と対照を見せています。オケの飴色の響きは甘く耽美的な雰囲気が漂います。179小節目のクレシェンドではチェロを強調し、緊迫感を際立たせていました。
中間部のオーボエソロ直前で、同じ瞬間で楽器によるpとppの対比を明確に演奏させ、立体感を鮮やかに表現しています。第2、3楽章、春の野のような穏やかさと美しさ。

第4楽章はリピートなし、一転して遅いテンポ重量感のある演奏で、2番ホルンのゲシュトップ強調。第5楽章では、重厚な前半と早いテンポでスピーディな後半と大きな対比を見せていました。

・ロイヤルフィルハーモニー管絃楽団
(1991年 7月29 - 30日 ロンドンBBCスタジオ スタジオ映像)
BBCの音楽番組「交響曲うらばなし」のシリーズからの映像で、プレヴンの曲目解説に続いて全曲が演奏されます。録音用のスタジオでの収録で楽員は正装ですが、プレヴィンはノーネクタイの白ワイシャツにチョッキを着たラフなスタイル。
同じものがcaltonレーベルからCDで出ています。

そつなく手際良くこなしたという印象です。ロンドン響との演奏と大きな差はありませんが、プレヴィンが額に汗を滲ませつつ指揮しているのに対して無表情な楽員、なんとなくビジネスライクで「お仕事です」といった演奏。後半は旧盤ほどの重量感は感じませんが、これはオケの色だと思います。

クラシック音楽の啓蒙番組のため、スコアを良く研究したわかりやすいカメラワークで、これは楽しめました。プレヴィンの解説も秀逸。
第1楽章リピート有り、「怒りの日」の鐘は画面に出ませんがチューブラベル使用。


ズデニェク・コシュラー(1928 - 1995)
プラハ生まれ、ブサンソン、ミトロプーロス指揮者コンクール優勝。
プラハ響の首席指揮者、チェコフィルの常任指揮者、プラハ国立歌劇場の音楽監督などを歴任。1983年から東京都響の首席客演指揮者。

コシュラーは、チェコフィルの常任指揮者の経験があるとはいえ、あまり注目されず地味な存在ではありましたが、スロヴァキアフィルを振ったドヴォルザーク交響曲全集のような民族的な音楽に本領を発揮。モーツァルトやシューベルト、マーラーでも堅実で誠実な音楽を聴かせてくれました。
90年代に入り創設まもないチェコナ・ショナル響を振り、スケールの大きさに深い叙情を漂わせた円熟した音楽を聴かせ始めましたが、数枚の録音を残したきりで逝ってしまいました。

コシュラーは度々来日し、三島にも来た事があります。残念ながら私はチケットを買いながらも急用のため聴くことができず、結局コシュラーの実演を聴けないままに終わってしまいました。

幻想交響曲には2つの録音があります。
・スロヴァキアフィル  1972年 スタジオ録音
・チェコフィル     1985年 スタジオ録音

・チェコフィルハーモニー管絃楽団
(1985年 プラハ スタジオ録音)
チェコ、スプラフォンレーベルへの録音。整然とした楷書風の演奏。
格調の高さは感じられるものの、こじんまりまとまりすぎていてスケールの大きさは感じられません。チェコフィルの演奏もゼッキの時と比べて幾分冷めているようです。

第5楽章「怒りの日」テンポを揺らしながら少しずつアチェレランドするところなど、当事一般的にやられた常識的なテンポ運びに終始しています。
印象に残った部分といえば第4楽章最後のファンファーレを大きくふくらませてクレシェンドしていたことぐらいでしょうか。コシュラーとしては面白みに欠け、これは期待外れの一枚。


(2004.12.05)