「ラフマニノフの2番を聴く」22・・ロシアの指揮者たち コンドラシン
「キリル・コンドラシン(1914 - 1981)」

モスクワ生まれ、ボリショイ劇場の指揮者の後、モスクワフィルの常任指揮者となり、このオケの水準を飛躍的に上げています。78年には西側に亡命し、ロイヤルコンセルトヘボウ管の首席客演指揮者となりました。亡命後はウィーンフィルなどを振り数多くの名盤を残しています。クーベリックの後任としてバイエルン放送響の音楽監督に内定していましたが81年、テンシュテットの代役として北ドイツ放送響の演奏会でリハーサルなしでマーラーの「巨人」を演奏したその晩に急逝。

・ ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団
(1980年8月29日  ロンドン、ロイヤルアルバートホール ライヴ録音)

コンドラシンのラフ2番の正規録音は存在しません。今回聴いたのは裏青の海賊盤CDで、
ロンドン、プロムスでのライヴ録音。

巨匠コンドラシン入魂の名演。オケも聴衆も燃えた壮絶なライヴ。
第1楽章序奏の神秘的な開始から尋常ならざる気配が漂います。情感あふれる弦楽器の旋律が地から芽が吹き次第に成長していくように流れ、Poco piu mossoで次第に加速、主部のAllegro Moderatoの寂寥感と詩情の豊かさは出色。練習番号13と14の4小節前の3,4番ホルンにゲシュトップ、練習番号17の6小節目の3,4番ホルンにトロンボーン付加。最後の1音にティンパニ、トロンボーン付加。カットなし。

軽いフットワークの第2楽章ではModeratoで大きくテンポを落し、大きく歌わせ、続くMeno mossoは狂気を帯びた激しさです。冒頭回帰の後次第に加速し、熱狂の度合いが徐々に高まりますが、終結部ではぐっとテンポを落しホルンとトロンボーンのコラールが宴の終わりの余韻と寂しさを思わせるような葬送行進曲のように鳴り響きます。

第3楽章では主題の1拍めの裏拍ですーと力を抜きながら流していく独特のアゴーギク、繊細さと静けさに満ちた中で。練習番号53から終結部のヴァイオリンとホルン、木管のソロの移ろいにはエロティックな雰囲気も漂います。
野性的に盛り上がる第4楽章は後半で大胆なカットがあり意表を突かれます。練習番号67の2小節前にティンパニ付加。後半練習番号85以降は音を割ったブラスの咆哮凄まじく怒涛の盛り上がりで大きなクライマックスを築いていました。終演後は爆発的な歓声と拍手の嵐。

熱狂と知性の絶妙なバランス、清潔なエロティックさも全編に漂う稀有な名演だと思います。コンドラシンはこの演奏会の僅か五ヵ月後に急逝してしまいました。
今回聴いたのはおそらくFMからのエアチェック録音からの海賊盤CD-Rです。ステレオ録音ですが、細部が不明瞭で巨大なアルバートホールの空間に音が拡散気味。このような録音でも演奏の凄さは充分に伝わってきます。正規音源でのCD化を待ちたいところです。

80年といえば、既にカットなしの演奏が主流となりつつあった時期ですが、第2楽章以降にコンドラシン独自のカットがあります。
以下が演奏時間とカットの箇所です。(  )はプレヴィンの1973年

・「第1楽章:16'56" ( 18'59" )」
カットなし。

「第2楽章:8'02" (10'00")」
・練習番号40から42の16小節めまで

「第3楽章:11'31" (15'37")」
・ 練習番号50から8小節
・ 練習番号53から55の前まで

「第4楽章:11'25" (13'59")」
・ 練習番号61の9小節めから練習番号62の9小節めまで
・ 練習番号68から4小節
・ 練習番号69から7小節
・ 練習番号82から84の4小節めまで

なお、今回とミトロプーロス、パレーのCDはこのコラムを読んでいただいている
高橋さんにお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。


(2006.05.18)