「ライン」を聴く10・・・・シューリヒト その2
今回はシュトゥットガルト放送響とのスタジオ録音を紹介します。

・シュトゥットガルト放送交響楽団
(1960年12月   スタジオ録音 )
会員制レコードクラブ、コンサートホールへのシューリヒト晩年の録音。

楽譜への加筆はパリ音楽院管との旧録音と異なる部分もあり、第三楽章の一部をヴァイオリンソロだけにするなど驚きの改変もあります。
ステレオ録音のために旧録音では気が付かなかった改変部分や、対向配置でのヴァイオリンの掛け合いを確認することができました。

この時期のシューリヒトは、コンサートホール・レーベルに短期間のうちにまとまった量の録音を残していますが、高齢の上に会員制のレコードクラブという特殊な録音のために、リハーサル時間をあまり取らなかったと想像しています。
第一楽章を聴いていると、オケが晩年のシューリヒトの棒に十分に付ききれていない部分や、入りのタイミングの感じ方が奏者によって微妙な差があり、アンサンブルに粗さが感じられます。

ただシューリヒトの譜面の改変は十分に音となって聞こえてきます。パリ音楽院管の時ほどのテンポの揺れはなく、ほぼ全曲一定のテンポで通していました。

第一楽章からスピード感十分の爽快さが感じられます。オケの鄙びた響きは録音にも原因がありそう。
40小節のチェロのスフォルツァート強調。
65小節からのホルンの1小節後ろへ異動(M)
255小節からと、319−325小節のヴァイオリンにホルンを重ねています。
383,384小節の小鳥のさえずりのような木管楽器の強調が面白い効果を上げています。
404−408小節のチェロ、コントラバスにホルンを重ねる。
411小節からのfffでは、ファーストヴァイオリンを1オクターヴ上げて歌わせます。
431小節の2,3拍めのファゴットの合いの手にホルンを重ねつつ大きなクレシェンド。

第二楽章は旧盤よりも遅いテンポとなりました。
9小節(リピート記号のあと)の最初のフレーズではヴァイオリンをカットし、オーボエとフルートのみで歌わせ、次の同じフレーズではオーボエ、フルートを休ませヴァイオリンのみに歌わせ大きな変化を演出。
25小節からフルートをカットし26小節のチェロ、コントラバスのピチカート化。
65小節めで加速。
96,97小節ではファーストヴァイオリンを休ませても管楽器のみとさせ、チェロとコントラバスをティンパニと同じ音型に改変。

第三楽章は森の中を逍遥しているかのような平穏無事で速いテンポ。木管楽器のスラーとスタッカートの細かな使い分けも見事。
3小節目からセカンドクラリネットにヴァイオリンを重ね、1番ホルンのフレーズをホルンに移すなど、実に細かい操作があります。
4−5小節、39−40小節の最初のフレーズをヴァイオリン1本のソロで演奏させているのには驚きました。
9小節めからのフルートと重なるヴァイオリンの16分音符をピチカートとしています。
これは25,26小節でも再現。
36小節からの木管の主題を支えるファーストヴァイオリンのスラーが実に美しく、最後の2小節にヴィオラを分割させて一部をDの音を長くのばしています。

第四楽章4小節目のセカンドホルンの3,4拍めに大きなアクセント。
カノン風に流れていくフレーズの受け渡しの音が螺旋状に絡まりながら発展していく部分の緊迫感は凄いものです。特に23小節目の2分の3拍子となってから下で楔を打ち込むような8分音符を奏でるチェロの音はまさに恐怖の響き。
ファンファーレのひとつ前の51小節のクレシェンド、デクレシェンドを無視しピアニシモで演奏させいきなりブラス群のファンファーレとなります。パリ音楽院管との演奏では最初の金管をカットしていましたが、この録音は改変なし。

第五楽章は冒頭4小節のチェロとコントラバスをピチカートとしたことで、音楽が非常に楽しげになりました。シリアスな雰囲気の第四楽章の後だけになおさら際立ちます。
最初の部分の木管はクラリネット以外すべてカット。
3,4小節めの1番2番ホルンのEsのオクターヴの合いの手にクラリネットを重ねていました。(ここはパリ音楽院管との録音も同じ)
ティンパニにも大きく加筆(フレーズの最後の小節にトレモロとクレシェンド)
18小節から初めてーボエとフルートが参加します。
22小節に大きなアクセント。2,4拍のアクセント指示を1−3拍めに改変して前進感を演出。
32小節からのファーストヴァイオリンを二分割して一部は旋律を演奏せず最後の音を長く伸ばしているようです。211小節のトランペットはトロンボーンと同じ型
ほぼ一定のテンポで進みますが、74小節でテンポを落します。285小節めで加速。

シュトゥットガルトの放送オケは、パリのオケほどの華やかな音色を持つオケではないので、晩年のシューリヒトの色がモロに出た多少枯れた無色の響きです。芸術的なモノクロ写真を見るような趣。

今回聴いたのは、日本コロンビアとスクリベンダムのCDの2種類です。
元の録音自体残響も少なく地味な響きですが、名エンジニア、イアン・ジョーンズのマスタリングによるスクリベンダム盤の音が明快でよい音でした。
ただ、フォルテの部分で音が割れるのが気になりました。製盤にも問題があるようで手元のCDは時折音飛びがする欠陥商品。Orz
(2011.06.06)