「ラインを聴く」23 フランス系の指揮者たち5 ジョルダン
「アルミン・ジョルダン(1932〜2006)」

スイス、ルツェルン生まれ。ローザンヌとジュネーヴで指揮を学び1961年ソルトゥルン歌劇場首席指揮者。チューリッヒ歌劇場第一指揮者を経て1971年からバーゼル歌劇場音楽監督。
1985年からスイスロマンド管弦楽団の音楽監督。

スイス生まれのジョルダンは、スイスロマンド管の音楽監督として良い仕事を残したためにエルネスト・アンセルメの後継者のような扱いを受けていますが、モーツァルトからシューマン、ワーグナーなどのドイツ物にも名演を残しています。

ジョルダンは1987年のスイスロマンド管との初来日公演を聴きました。

曲は、アルゲリッチをソリストに迎えたラヴェルのト長調のコンチェルトを含むオール・ラヴェルプロで、オーケストラ曲は「スペイン狂詩曲」、「ラヴァルス」、「ボレロ」といった舞曲系のものでした。

この時のお目当てはアルゲリッチだったのですが、アンセルメの時代のスイスロマンド管の暖色系の音色とは異なる透明度の高いヒヤリとした青白いオケの響きが、非常に印象に残っています。じわりじわりと着実に温度を上げていき、青白き炎が燃え上がるクライマックスを迎えたボレロなど見事なものでした。

アンコールは確かドビュッシーの「古代のエピグラフ」の第1曲をアンセルメ編曲版で演奏したように記憶しています。これも、ジョルダンのブルーな音色とぴったりあったセンスの良い演奏でした。そしてもう一曲はシャブリエの「楽しい行進曲」だったような・・・

ジョルダンのシューマンは交響曲の全集録音をはじめ、ミサ曲、オラトリオ「楽園とペリ」のような珍しい曲の録音があります。

・スイスロマンド管弦楽団
(1989年9月 ジュネーヴ、ヴィクトリアホール スタジオ録音)

仏エラートへの全集録音中の一枚。
楽譜の改変はなく、各楽器をバランス良く響かせ明るく穏やかにロマンの香り豊かに歌い上げた名演でした。

第一楽章から勢いの良い流れの中で、整理されたアンサンブルと見通しの良い端正で明晰な音楽運び。1
22,484小節2,3拍めのアクセント指示をテヌートにしていき横に揺れながら流れていきます。sfpからの上昇音型も明確。ホルンと弦楽器が一体となりアポロ的な均衡の中でロマンティックに歌い上げていきます。トランペットの三連譜を時おり強調するなど単調に陥るのを避けているような演出。

第ニ楽章もさわやかなロマンの香り。柔らかな響きの中で音がキチンと整理されていました。第三楽章も心地よい安心感が聴き手を包みます。5小節目の2拍めの穏やか下降音に僅かなリタルダンド。自然なルバートをかけつつ静かに音楽は進行していきます。

宗教的な悲壮感漂う第四楽章は、一転して巨大な音楽が立ち上がります。
44小節めでテンポを落とし、トランペットのファンファーレ部分まで緊張感を持続しながら自然に盛り上げていきます。最後の三つの和音はあたかもケルン大聖堂の鐘の音のように響いていました。

第五楽章フィナーレは軽快に開始。28小節で僅かにテンポを落し、80小節目から加速。主題が発展していった152小節でルバート。
終盤の盛り上がり270小節からのホルンとトロンボーンがカノン風に追いかける部分ではチェロの猛然と細かく刻みます。
287小節めのトロンボーンのf指示をpとしてクレシェンドをかけつつ289小節のティンパニに大きなクレシェンドながらクライマックスを構築していました。

爽やかな涼風の吹くような演奏でありながら、がっしりとした建築物を思わせるような堅固さのある名演だと思います。

今回聴いたのはワーナーから出ていた全集録音CDです。落ち着いて聴きやすい好録音でした。




(2012.01.08)