「シベリウスの2番を聴く」17・・・北欧の指揮者たち2 ハンニカイネン
「タウノ・ハンニカイネン(1896〜1968)」

フィンランドのラハティ郊外の生まれ、父と兄は作曲家。ヘルシンキ音楽院でチェロを学び、ヘルシンキ市立管弦楽団(現ヘルシンキフィル)の首席チェロ奏者として活動。一時期パブロ・カザルスにも師事しています。
1920年に指揮者に転じ、ミネソタのダルース響の常任指揮者を経て1947年からシカゴ響のアソシエートコンダクター。1951年から1963年までヘルシンキフィルの音楽監督。1964年には来日もしています。

ハンニカイネンはカヤヌスに次ぐ世代のフィンランドの指揮者で、シベリウスの存命中にシベリウス・フェスティバルに参加していました。録音は少なく、残された録音はほぼシベリウスの作品に限定されています。

・ シンフォニア・オブ・ロンドン
(1959年1月    ロンドン サマーセットホール スタジオ録音)

イギリスの会員制レコードクラブ、World Record Clubへの録音、この時に交響曲第5番と「カレリア」組曲も録音されています。
 
シベリウスのスペシャリストとして世界中を駆け巡ったハンニカイネンの確信に満ちたシベリウス。枯れて荒涼とした響きが独特の味わいを感じさせます。オケは非力ですが、ハンニカイネンの曲への深い共感が名演を生みました。

第一楽章冒頭から鄙びて痩せた弦楽器の音に驚きます。腰の弱さも感じますが、聴いているうちに、なんともローカルで素朴な味わいに惹きつけらました。
白夜を彷彿させる青白い響き、木管楽器のトリルは小鳥の囀りを髣髴させます。シベリウス自身が望んだ大自然の息吹でしょうか。274小節からの木管楽器から弦楽器への移ろいの美しさも印象的です。

第二楽章のコントラバスとチェロのピチカートに乗って歌うファゴットに漂う孤独感は、さながらフィンランドの民俗叙事詩「カレワラ」を語る吟遊詩人のようです。
95小節からのAndante sosutentoは感動的な盛り上がりを聞かせ。続くAndante con moto edo energicoの1拍めでは強烈なスフォルザンド。166小節2拍目のティンパニの突然の轟音など、他の演奏では聴けない独特の解釈が聴かれます。悲劇的な様相を含みつつコブシを利かせながら歌う186小節からの歌も他の国の指揮者からは聞かれないものです。

第三楽章は中間部のオーボエのソロ前のGPのティンパニのドコッとしたデッドで土俗的な音が印象的。157小節からの木管楽器の減速も絶妙。299小節の二拍めを長めにとりlargamenteの刻みも明確。そしてフィナーレ直前のトロンボーンを極端に強調しながら第四楽章へ。

第四楽章の最初の主題は、弓をべったり使ったようなはっきりとした音。117小節から118小節でテンポを落とし、続く弦楽器はたっぷりと歌い127小節から、ゆっくり加速していきます。
第一主題の再現される199小節からの木管楽器はスタッカート。262小節からテンポはゆっくり落ちていきます。
後半トランペットソロのあたりからのティンパニの3拍めのアクセントを2拍目に改変。

オケのアンサンブルは時として管楽器に出遅れがあったり、縦の線の合わない部分もありますが、第二楽章60小節めの弦楽器の入りでの強烈なアクセントや、フィナーレ突入直前のトロンボーンの豪快な強調などが素晴らしい効果を上げています。

荒削りで男性的、大自然の中に身を置くかのような幻想的な雰囲気漂う魅力的な演奏でした。特に曲への深い共感に満ちた第二楽章は感動的で、ここまでローカル色を徹底させると強烈な説得力があります。

今回聴いたのは、米CrosroadのLPと英EMIのCD、そして東芝EMIの国内盤CDです。音は三者三様。LPは音量バランスが右に偏った上に疑似ステレオのような痩せた音。
国内盤CDは、逆に音を磨きすぎていて音の腰が弱くなり骨太なハンニカイネンの芸風をスポイルしています。外盤CDが良いと思いました。
(2009.05.16)