「チャイコフスキーの5番を聴く」43・・・・ロシアの指揮者たちその3  ダヴィッド・オイストラフ
ダヴィッド・オイストラフ(1908〜1974)
ウクライナのオデッサ生まれ。20世紀を代表するヴァイオリニスト。晩年はヴァイオリニストと並行して指揮活動も初めていました。

1968年のウィーン芸術週間ではウィーン交響楽団を振ってブラームスのドイツレクイエムを指揮、さらにメロディアにはモスクワ放送響を振ったマーラーの交響曲第4番やベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」、ブラームスの交響曲第2番といった録音もあり、なかなか本格的な活動であったことを伺わせます。

・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1972年8月23日 ザルツブルク 祝祭大劇場 ライヴ録音)

ザルツブルク音楽祭でのライヴ録音。
この3日前にピアニストのリヒテルと組んだヴァイオリンリサイタルのコンサートを開いています。

自己陶酔型のロマンティックな演奏でした。

鳴っている音楽に底知れぬ重量感がありますが、細部にラフな部分があり、遅いテンポの中でずいぶんと音楽は揺らいでいます。

クライマックスへ到達する過程で、事前にテンポと音量を極端に落としてしだいに加速しながらクレシェンドしていきます。曲の随所に現れるこのパターンがワンパターン気味。

第一楽章序奏は重く遅く暗い三重苦。
表情豊かなクラリネットソロと116小節からの第2主題の優しい歌は美しいものがありました。それにしても曲のロマンティックさに浸りすぎているようです。490小節から自然な加速。

第二楽章はもの静かな演奏。
モデラートコンアニマのクラリネットソロが1小節早く入ってしまい、今にも止まりそうなほどスローモーに。
やがて徐々に加速する様子は、まるで映像のコマ送りを見ているかのようです。

オケの野太い音が印象的。荒っぽさと繊細さの共存。
最後の4小節でのテンポと音量が微妙に連動しながらの減衰が絶妙。



第四楽章冒頭は極端に遅く、ゆるくダブッとした開始。
58小節のアレグロビバーチェへの入りも緊張感に欠けています。
ここでオイストラフの気力が尽きてしまったのでしょうか。

音楽が重く前進感がなく、大きく上昇する頂点での230小節のティンパニのトレモロが落ちていました。

音がバラバラに野放図に鳴っていて全体の造形が崩れている印象ですが、終演後のブラボーの声は盛大でした。

はなはだ緊張感に欠ける演奏で、ネット上での世評の高さが不思議です。


今回聴いたのは、orfeoから出ているCDです。70年代のライヴとしては水準以下。





(2015.06.14)