「チャイコフスキーの5番を聴く」21・・・ケンペン
「パウル・ファン・ケンペン(1893〜1955)」

オランダのライデン生まれ、ヴァイオリンを学び17歳にしてアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスター。その後指揮者に転じ、1934年から1942年までドレスデンフィルの常任指揮者。
第二次大戦中にナチに協力したといわれ、戦後は演奏活動禁止処分となってしまいました。
禁止処分を解かれた後は、ヒルヴェルサム放送響やアーヘン歌劇場の音楽監督となりましたが、実力のわりには不遇だったと思います。

ケンペンの芸風は推進力のある男性的で力強さが特徴で、チャイコフスキーなどのダイナミックな曲には抜群の演奏を聴かせました。

・アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(1951年12月3日 アムステルダム・コンセルトヘボウ スタジオ録音)

男性的な豪快さで聴き手を圧倒する手に汗握る名演。

ケンペンを代表する有名な録音です。野武士のような猪突猛進ピアニシモ欠如型の演奏ですが曲想にはよく合っていると思います。

第四楽章のカットの位置やシンバルの追加など、おそらくオケに伝わるメンゲルベルクの使用したスコアやパート譜を十分に研究したことが予想される演奏ですが、明快にしてストレートな解釈を聞かせるケンペンと、ロマンティックで個性的なメンゲルベルクではキャラクターが対照的です。結局出てきた音楽は全く別物となっていました。

第一楽章冒頭のピアニシモ指示の部分からメゾフォルテで開始。チャイコフスキーが細かく指示している序奏の強弱変化もほとんどメゾフォルテのまま進みますが、異様なほどのテンションの高さが単調さを感じさせません。
38小節からの第一主題の弦楽器の8分音符はメゾピアノで軽めに演奏。116小節からの第2主題の力の入るフォルティシモ。
コンセルトヘボウのホールに響く深々とした重低音の魅力で聴き手に迫ります。
コーダのテンポも速く、最後ピアニシモ指示の部分もメゾフォルテで終結。

第二楽章は各声部が明快に鳴り、76小節からのクラリネットソロの入るModerato con animaも自由に歌わせていました。
100小節のブラスのファンファーレ部分では、テユーバの3連譜にティンパニを重ねていました。118小節からのsosutenutoの自由なテンポの変化も印象的。
運命の動機が収まるピアニシモ部分169小節めにティンパニの強打付加。
234−236小節のテヌート指示の部分ではアクセント気味。

第三楽章はスローワルツ。中間部の速いパッセージにには音の遊びのような余裕が感じられました。後半は特に軽く収め、220小節からのPesante(重々しく)指示も軽く通り過ぎます。

第四楽章冒頭のメゾフォルテ指示はほとんどフォルテで決然と開始。高まる緊張。
Allegro vivaceではドドドッドドドドドと突進する猛牛の如し。
これはとても落ち着いて聞いていられぬド迫力です。
テンポ設定は標準よりも遅いにもかかわらず前へ前へと突き進む暴走感は凄いものでした。オケも非常に優秀。106小節の8分音符は長めでした。

210小節からメンゲルベルクと同じカットがあります。
初めてこの演奏を聴いた時はこのカットにがっくり来たのですが、今聴くとこの遅いテンポでのカットには必然性を感じます。
350小節から加速。400小節めの弦楽器の押しつけるようなフォルテも印象的。
終盤の490小節で一旦曲が終わるような誤解を与える部分にAの音を加え、終結感を排除しフライング拍手の予防まで考えています。
最後にシンバル2発を付加し豪快さを演出していました。

重心の低い黒光りするようなオケの響きと、確信に満ちたケンペンの指揮。一音一音をたっぷり鳴らし切ったケンペンの解釈には爽快さも感じられました。

今回聴いたのは、フィリップスの国内盤LPと、同じくフィリップスのノーノイズシステムの外盤CD。モノラルながら非常に良い音です。
細部の各パートの分離はCDが優れますが、濡れるような黒光りするコンセルトヘボウ管独特の響きはLPにより強く感じ取れました。
(2011.06.30)