「チャイコフスキーの5番を聴く」11・・・ロシアの指揮者たち ロジェストヴェンスキーその2
今回はロンドン響を振ったスタジオ録音とライヴ録音を紹介します。

・ ロンドン交響楽団
(1980年代 ロンドン スタジオ録音)
英IMPへの録音、全集録音という記事を読んだことはありますが、4番以降の3曲しかお目にかかったことはありません。

楽譜に忠実、ソツなくまとめた演奏。オケも充分に鳴っているしテンポの変転も鮮やか、特に大きな欠点はありませんが、どことなく覇気に欠ける演奏でした。
この頃からのロジェストヴェンスキーは芸風が変わり、安全運転気味の面白みに欠ける演奏が多くなってしまったように思います。

第一楽章冒頭部分では足を引きずるような重い序奏の弦楽器。
Allegro con animaからは1拍めに僅かなアクセント。音は鳴っていますがエネルギー感には不足します。440小節の加速はなくコーダもインテンポのまま。

第ニ楽章序奏ではモスクワ盤で感じた不気味さはありませんでした。6,7小節でテンポを大きく落とします。太い音色のホルンソロは見事。中間部のクラリネットソロの直前の減速はごく自然。

フィナーレも大きなテンポの変化はありませんが、僅かずつ速めていきます。58小節目のティンパニの強打はなくそのままのメゾフォルテ。181小節め、と329小節目で段階的に加速。

清く優しく美しくといった調子で、去勢されたかのような覇気の無い演奏で、チャイコフスキーとしては面白みに欠けます。


ロンドン交響楽団
(1977年 8月14日 ザルツブルク祝祭大劇場 ライヴ録音)
ザルツブルク音楽祭のライヴです。

シャープな動きとfffの大爆発、生命力に満ちた歌に作品への深い共感。
テンポはスタジオ録音と変わりませんが音に漲るエネルギー感が全く違います。

第一楽章195小節の壮絶なクライマックス、440小節の弦楽器群の歌に応える木管群の濃い表情も印象的。その後のコーダでは、テンポの変化はありませんが次第に緊張感を増して凄愴な盛り上がりを築いていました。
第二楽章の序奏は速め。ホルンソロは自由に歌いますが、軽い音色でスタジ録音とは明らかに違う奏者です。第2主題45小節は大きく空に飛び立つような開放感。
61小節のpoco piu menoの自由な動きからクラリネットソロに繋げる部分も絶妙な動きです。99小節の運命の動機でテンポをぐっと落とし壮大なクライマクス。111小節の太いバイオリンの音も印象的。

第三楽章は軽くサラリと流し、64小節からもテンポは不動。細かな部分の速いパッセージでのアンサンブルもお見事。この演奏全体でべらぼうにうまいクラリネットソロを聴かせるのは、この頃首席だったジャック・ブライマーだと思います。

第四楽章は38小節めからじわりわりと加速。43小節で一旦テンポを落とし、管楽器群の二分音符部分をパイプオルガンのような荘重な響きで歌わせる解釈は初めて聴きました。急速なクレシェンドからの頂点58小節のティンパニのロールが凄まじく、ここから猛然とダッシュ開始。とても落ち着いてられないようなクライマックスの中でのバスチューバの大爆発は名手ジョン・フレッチャーか?

指揮者、オケ一体となった狂乱の中でもアンサンブルは乱れません。ロンドン響恐るべし。

終盤コーダ部分に入る471小節のフェルマータは短く切り上げ、続くModerato assaiは速いテンポ。543小節のホルンのファンファーレも凄まじく、最後の4つの音はゆっくり押し付けるように終止。
聴衆の熱狂も納得の凄演。この曲を初めて聴いた時の感動が蘇りました。
ロジェストヴェンスキーはライヴで真価を発揮する人だったのでした。

今回聴いたのは当時のFMからのエアチェック録音です。経年変化のためテープヒスが感じられますが、演奏の凄さの前には気になりませんでした。
(2010.10.16)