「チャイコフスキーの5番を聴く」8・・・初期の録音 メンゲルベルクその2
・ ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1940年5月10日 ベルリン フィルハーモニーホール スタジオ録音)

ベルリンでおこなわれたチャイコフスキー生誕100年記念演奏会直後のスタジオ録音。
当日はコンラート・ハンセンのピアノ独奏によるピアノ協奏曲第1番も録音がおこなわれました。

この連載の第1回で紹介しましたが、この演奏は私が初めて聴いたチャイコフスキーの交響曲第5番の演奏です。

今回聴いたワーナーの復刻CDの音は、私が最初に聴いたキングのLPとは別演奏とも思えるほど優れた音で、演奏の印象が一変しました。

久しぶりに聴き、あらためてメンゲルベルクの確信に満ちた解釈と、ベルリンフィルのずしりとした手応えのある音に大きな感銘を受けました。

テンポの揺れは旧録音よりも大きく、自己陶酔の世界。
第四楽章カットの箇所は210小節から315小節までと、472小節から489小節まで502小節の1拍目のシンバルの追加とも旧録音と同じです。

第一楽章の最初の主題のフレーズの終わり4拍目を強調し媚びるように表現、第二楽章47小節の第一ヴァイオリンの擦り寄ってくるようなしなやかな動きや、クラリネットソロの入る60小節からの妖艶な動きなど、コンセルトヘボウ管を振った時よりもメンゲルベルクの解釈がデフォルメされている印象です。

一方、第一楽章425小節のmolt piu tranquilloの前に微妙なパウゼや、第四楽章の展開部に入るAllego vivace1拍目のティンパニの強打はなく楽譜のとおりのmf、そして59小節のオーボエにトランペットを重ね470小節のティンパニのアクセント付加など、コンセルトヘボウ管を振った時とは異なる、この演奏でしか聴けない解釈もありました。

おそらくこの録音にはメンゲルベルクの解釈と同時に、ベルリンフィルに伝授されていたこの曲の解釈に大きな影響力を持っていたニキシュの演奏スタイルが残されているのではないかと思います。

ベルリンフィルはこの曲を相当弾き込んだ印象で、第三楽章終結部でファゴットが一瞬早く飛び出したり、第四楽章の44小節でクラリネットの僅かなミスはあるものの、メンゲルベルクの変幻自在の棒にぴったりと付けています。第三楽章中間部の一糸乱れぬ速いパッセージなど実に見事なもの。
鋼鉄のような引き締まった音と近代的なスリムな響きは現在のベルリンフィルにも共通するものです。

この演奏を記録した元となったテレフンケンの金属原盤は、第二次世界大勢で失われています。したがって現在聞けるものは、全て現存する発売されたSP盤からのコピーとなります。

今回聴いたのは、1972年頃にキングレコードが発売した国内盤LPと、ワーナーから出ていた「メンゲルベルク、チャイコフスキー テレフンケン発売録音集成」のCDです。

CDはオランダプレスの状態の良いSPからの復刻、キングレコードのLPはどのような素性のSPを使用したのかわかりませんが、キングのLPは、針音を大幅にカットしたためにレンジが狭く、音が丸くなっている上に、低音がボンボン響きます。

一方のCDは各楽器は明瞭。第一楽章の最初のフェルマータの休符の欠落という復刻ミスはあるものの、ホールトーンもはっきりと聞こえ、当時のベルリンフィルの優秀さと重心の低い黒光りするような音を見事に再生していました。

*この時のリハーサル映像とおぼしきものがyoutubeにアップされていました。
内容は楽団員との打ち合わせ風景と第3楽章冒頭から数分です。

音と映像はズレていますが、メンゲルベルクのチャイコフスキーの第5番の指揮ぶりを伝える大変貴重なものです。

メンゲルベルクはにこやかな表情で気持ち良さげ、かなり明確なビートで振っています。
おそらくこの前に綿密なリハーサルがあった上での、ニュース映像として意識した外向きのリハーサルのようにも思えます。(2018.2.16 加筆)
(2010.07.30)