「チャイコフスキーの5番を聴く」38 フランス系の指揮者たち モントゥーその2
・北ドイツ放送交響楽団
(1964年2月 ハンブルク スタジオ録音)
会員制レコードクラブ、コンサートホールソサエティへのモントゥー最晩年の録音。
モントゥーはこの年の7月に世を去っています。
この録音が生涯最後のスタジオ録音となりました。
この時にはべートーヴェン、モーツァルト、ワーグナーなどのまとまった数のステレオ録音を残しています。

モントゥー最晩年のロンドン響とこのNDRとの一連のステレオ録音がモントゥーの芸風を知るうえで貴重な歴史的遺産となりました。
モントゥー88歳。サラリと自然に流しながらも時としてオケを豪快に鳴り響かせていきます。オケの引き締まって無駄のない音はモントゥー独特のものです。
若々しさの中に色気と華があるのが驚異的で、名人芸もここまで来ると神の域。

第一楽章の冒頭からぼそりとした素朴な音なのはオケの性格というよりも録音に原因がありそうです。若々しく颯爽とした音楽運びで進み、100小節めから自然に加速。
第2主題は速めのテンポとし363−364小節のトロンボーンの早いパッセージを強調していました。コーダは猛烈な加速で終結。

静かで美しい第二楽章のホルンソロもずいぶんと枯れた音。
34−36小節のTempo 1からAnimandoまでの間は木管の動きに先導させながら音楽は大きく揺れていきます。
続くpoco menoからクラリネットソロが入るmoderato con animaまでの自然なテンポの移ろいの後に、99小節の第一楽章冒頭の「運命」の主題がトランペットで高らかに登場する崇高な場面などは、凡百の指揮者ではとても太刀打ちができないほどの凄いもの。

さらりとした落ち着きのある第三楽章は、対向配置が第2ヴァイオリンから第1ヴァイオリンへの受け渡しで立体的で大きな効果を上げていました。

第四楽章は緩急の差が大きいドラマティックなフィナーレ。
さりげない開始からじわりじわりと緊張感を増幅していき感動を誘います。
20小節までテンポ設定は遅めで、43小節からのブラスのコラールでフォルティシモの大爆発。58小節のAllegro vivaceにティンパニの一発有り。主部に入り68小節から加速。127小節のティンパニの連打の強調も印象的。
172小節のメインテーマは堂々たる大行進。展開部に突入してからのコントラバスも実に雄弁。390小節のヴァイオリンはさらりと流し、461小節のfffでは素晴らしい響きの見事なクライマックスを築いていました。

この演奏を初めて聴いたときは、地味な録音ともあってさほど良い印象はなかったのですが、今回久しぶりに聴いてみて俗世を超越した自然体の中にモントゥーの人間の大きさのようなものが感じられる演奏であることに気が付きました。

今回聴いたのは、コンサートホールレーベルから出ていた国内盤LPと、日本コロンビアが出した国内盤CDです。
1964年録音とはいえ、残響少な目の乾いたコンサートホールレーベル独特の音です。
LPではかなり歪が多く、CDでも奇跡が起こるわけではありませんが多少聴きやすく改善されていました。

以前スクリベンダムからCD化された名エンジニア、イアン・ジョーンズがリマスタリングをおこなった一連のモントゥー&NDRの録音の中で、このチャイコフスキーのみマスターテープが発見されずCD化されていません。
(2013.11.01)