「巨人を聴く」40・・・・・ チェコの指揮者たち クーベリック
「ラファエル・クーベリック(1914 - 1996)」

チェコの指揮者のマーラー演奏を紹介していきます。
マーラーはチェコの西部ボヘミアのカリシュトで生まれました。
交響曲第7番はマーラーの指揮でチェコフィルが初演するなど、チェコとマーラーは深い関係にあります。

クーベリックはチェコの大ヴァイオリニスト、ヤン・クーベリックを父に持ちケルン郊外で生まれました。
プラハ音楽院に入学し、作曲、指揮、ヴァイオリンを学び1934年チェコフィルを振って指揮デビュー。
1941年に27才の若さでターリヒの後を継いでチェコフィルの首席指揮者となりました。
1948年チェコの共産主義化を嫌い西側に移住しシカゴ響の音楽監督。
女性音楽評論家の猛烈な反クーベリックキャンペーンのため辞任に追い込まれ、コヴェントガーデン歌劇場、バイエルン放送響の音楽監督、1984年に引退を表明、チェコの民主化を契機にチェコに帰郷しています。


クーベリックは比較的早い時期からマーラーを取り上げ、スタジオ録音では60年代末から70年代にかけてのバイエルン放送響を振ったマーラーの交響曲全集という大物があります。

「巨人」には二つのスタジオ録音のほか映像を含め今のところ6種のライヴ録音が出ています。

・1954年    ウィーンフィル     スタジオ録音
・1956年    トリノ・イタリア放送響  ライヴ録音
・1959年    トリノ・イタリア放送響  ライヴ録音
・1967年    バイエルン放送響    スタジオ録音
・1975年    ロンドン響       ライヴ録音
・1979年    バイエルン放送響    ライヴ録音
・1980年    バイエルン放送響    ライヴ映像
・1983年    ニューヨークフィル   ライヴ録音

トリノ響との二つの録音は同一かもしれません。
 

・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1954年6月27日 ウィーン ムジークフェラインザール スタジオ録音)

マーラーに対して冷たかった頃のウィーンフィルによる「巨人」の初録音。

この前日にフルニエとのドヴォルジャークのチェロ協奏曲の録音をおこなっています。

クーベリックはシカゴ響の音楽監督辞任後の50年代から60年代初めにかけてのモノラルからステレオへの過渡期に、デッカとEMIにウィーンフィルを振ってまとまった数の録音を残しました。

ブラームスの交響曲全集や「我が祖国」全曲、「新世界より」、モーツァルトの後期交響曲、マーラーの「巨人」のように、後にクーベリックが再録音を行った重要なレパートリーのほか、チャイコフスキーの後期交響曲や「未完成」など、再録音をおこなわなかった曲まで網羅されているのが注目されます。



クーベリックが指揮を志したきっかけのひとつとして、少年の頃にワルターの「巨人」の演奏を聴いたことも挙げています。


このウィーンフィルとのマーラーは、速いテンポのすっきりとした若々しさの中に、きっちり真面目に古典的にまとめた演奏でした。

バランス良くきちんと整理の行き届いたオケのアンサンブルには、現代的なテイストも感じられます。

第一、 二楽章リピートなし、第四楽章のシンバルなし。

使用譜は1912年版のようですが、1906年版の要素を含むワルターがコロンビア響を振ったステレオ盤に近い版です。

クーベリックがシカゴ響の音楽監督だった1950〜1953年までの間は、ニューヨークでワルターが活躍していた時期と重なっています。
第四楽章の動きなど、ワルターの大きな影響が想像できます。


この7年後に同じウィーンフィルとのクレツキの録音は、古い1906年版で録音していました。


第一楽章序奏から速めのテンポ。
主部に入ると演奏に落ち着きが出てきました。終盤の木管楽器に粘着質なルバート。
pに付いたアクセントはマーラーの指示に忠実に柔らかく演奏しています。
312小節から減速、最後のクライマックスへ登っていきます。

第二楽章もぶれずにまっすぐなテンポ。
77−78小節のトランペットは1906年版。
1906年版の特徴である155小節と326小節めのティンパニは後者のみ入ります。
トリオ187小節目のファゴットにホルンが重なるのも1906年版。
柔らかな弦楽器の美しさが印象的です。

第三楽章も標準より速め、ピッチが幾分高いことやホルンのゲシュトップの響きが目立つなどのウィーンフィル固有の特徴が顕著。
51小節からのソフトで妖しげなヴァイオリンの響きもウィーンフィル独特のもの。

第四楽章は典型的な1906年版です。
54小節からのトランペットは入りませんでした。85小節目のpesante指示はワルターの解釈に共通したもの。

141小節から急加速は唐突。
弦楽器の細かな動きをはっきりと聞こえ、繊細さの中にも大きく歌わせる豪快さも共存。
終盤の補強はトロンボーンのみのようですが、ウィンナホルンのフォルテシモがトロンボーンのように聞こえているのかもしれません。

よくまとまっていますが、後のクーベリックの演奏に比べると表面的なのは否めません。

ウィーンフィル独特の皮製のティンパニの音は良い雰囲気でした。

クレツキの演奏と比べるとアンサンブルはこちらの方がまとまっているものの、ウィーンフィルの魅力や自発性を引き出す力はクレツキの演奏に一日の長があるようです。

今回聴いたのはDECCAが出していたCDです。

固めの音でムジーフェラインザールの豊かな響きはあまり感じませんでした。



(2016.07.04)