「巨人を聴く」16・・・・ワルターその5
・アムステルダムコンセルトヘボウ管弦楽団
(1947年10月26日  ライヴ録音)

ワルターのコンセルトヘボウ管客演時の録音、ワルターは1952年にも客演しています。

コンセルトヘボウ管はマーラーが生前にしばし客演し、マーラーとも親しい仲であった常任指揮者のメンゲルベルクは、何度もマーラーの作品を取り上げていました。

以下はマーラー存命中にコンセルトヘボウ管が「巨人」を取り上げた演奏会です。

1903年10月25日(マーラー指揮)
1904年 1月31日、2月3,10,11日 (メンゲルベルク指揮)
1907年 1月24日(メンゲルベルク指揮)

この演奏は硬派な激しさとロマンティックさが程よく共存。
ワルターのちょっとした棒の変化に、オケが敏感に反応していきます。
オケと指揮者が確信を持って演奏しているのが如実にわかる素晴らしい名演でした。

ワルターも気分が良かったのでしょう、第一楽章の主題部分で鼻歌を歌うワルターの声が聞こえます。

第一、二楽章のリピートなし。第四楽章練習番号「44」のシンバルなし。
使用楽譜は1906年版(SP1)。

1906年版の要素を多く含みますが、1912年度版に近い部分もある独特の版です。
マーラーと非常に親しい仲だった、メンゲルベルクのアイディアが混在しているのでしょうか?

第一楽章、最初のトランペットはミュートを付けて3番トランペット強調の濃いファンファーレ。続く深々としたホルンの音も良く、オケはこの曲を十分に演奏慣れしている様子。
特に第一主題以降の音楽のノリ具合が素晴らしく、ワルターの気持ちよさげな鼻歌が聞こえていました。

弦楽器と木管楽器の絡みも美しく、276小節あたりから緩めては速めるテンポの変化。
117小節のファゴット有り、305小節ホルン有りは1906年版の特徴。

第二楽章  65小節めのトランペット有り。108小節めからのコントラバスとチェロの細かな動きは、テンポをきっちり保ちながらmfから正確にpppまで落ちていきます。
155、326小節のティンパニ有り。
トリオは1906年型でスイスイとあっさり音楽は進みます。

第三楽章は速めのテンポで健康的な明るい歩み。全体にピッチが多少低いのはアセテートディスクの状態が悪いのでしょうか。
19小節のオーボエの合いの手が入る瞬間で、コントラバスのピチカートと旋律部が一体となりながら揺れていく部分などすごいもの。

コンセルトヘボウ管は、同時期のベイヌムとのスタジオ録音を聴くと、第二次世界大戦で大きな痛手を受けたようにも聞こえますが、この演奏を聴くかぎりではメンゲルベルク時代のうまさは健在。
トランペット二重奏も軽く明る響き、50小節からの弦楽器群が濃厚、続く歌曲の部分からは懐かしくも憧れを感じさせてロマンティックに歌います。
終結部のファゴットソロが入る直前からコントラバスを強調していました。

第四楽章の冒頭シンバルの固くカチーンとした音色が印象的。
54小節めのトランペットなし。128小節で大きなリテヌート。

フェルマータが連続する150小節前後では、最後の158小節のフェルマータを大きくとっていました。

静かになってからの210小節の自然なルバートしながら、218小節のフェルマータはあっさりやりすごし、210小節でテンポを落とします。
252小節のティンパニにクレシェンド付加。490小節のヴィヴラートたっぷりの弦楽器。

605小節から、コントラバスの着実にクレシェンドしながらの壮大なクライマックスへ突入。
コーダの639小節から遅くなり、678小節で大きなタメのあとに、ぐいぐいと音量を上げ壮大なクライマックスのアーチを築いていました。

ホルンの補強は、トランペット、トロンボーン各1.これは1912年版以降の特徴。

ライヴながら完成度が高く、十分な熱狂と即物的な端正さが共存した名演でした。

今回聴いたのは、コンセルトヘボウ管の名演を年代順に集めた、コンセルトヘボウ・アンソロジー中の一枚です。
アセテート録音のために針音は盛大に聞こえ、フォルテの部分で、リミッターがかかり極端に音量が小さくなりますが、録音年代を考えると良い音です。


(2014.06.30)