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「第九を聴く」13 ドイツ正統派の指揮者たち コンヴィチュニー
今回から、ドイツの地方歌劇場で経験を積んだ、現場叩き上げのカペルマイスター
たちの第九を紹介していきます。
かつてヨーロッパで指揮者となる一般的なコースとしては、まずオペラハウスの練習ピアニストからスタートして、やがて合唱指揮者、オケの下振り、そしてオペラを指揮してその中から有名な人がコンサート指揮者になるというのが、通常の道のりでした。

フランツ・コンヴィチュニー(1901〜1962)
チェコ、モラヴィア生まれのコンヴィチュニーは、フルトヴェングラー時代のライプチヒゲヴァントハウス管のヴァイオリン奏者を務めた後、シュトゥットガルト国立歌劇場の練習指揮者となり、その後、フランクフルト、フライブルク、ハノーヴァー、ドレスデン、ベルリンの国立歌劇場の音楽監督を歴任といった、まさに現場叩き上げの典型的な指揮者です。1949年からはメンデルスゾーン以来の伝統を誇るライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の常任指揮者となりました。
コンヴィチュニーの第九には、ゲヴァントハウス管とライプチヒ放送交響楽団との録音が残されています。

ライプツチヒ・ゲヴァントハウス管、ライプチヒ放送合唱団、
S:ヴェングロール、A:ツォレンコップ、T:ロッチュ、Br:アダム  
   (1959年7月、 )
オケの重厚な響きを生かした頑固で実直な演奏です。何も引かない何も足さない式のコンヴィチュニーの生真面目なまでの演奏を聴いていると、ベートーヴェンの音楽は、楽譜を忠実に再現すれば充分効果的に書かれているのだ、ということが実感できます。楽想が変化する直前の、ための作り方、その後のテンポの自然な流れなど、熟練の職人芸を聴く思いがします。特にゲヴァントハウス管の渋く柔らかな響きが実に魅力的で、暖かな幸福感を感じさせる第4楽章でのチェロとベースによって奏でられる導入部分の響き、二重フーガでの合唱の立体的な扱いなど、聴くほどに味の出てくる見事な演奏だと思います。
アーベントロート盤でもアンサンブルに問題を残した合唱ですが、技量は今一つであるものの、ここではかっちりまとめた歌唱を聴かせています。長くオペラハウスで経験を積んだコンヴィチュニーの実力のなせる技なのでしょう。独唱者では、若き日のテオ・アダムが若々しい張りのある声で優れた歌唱を聴かせます。他の歌手も水準以上ですが、テノールの軽い声質はちょっと私の好みには合いませんでした。
楽譜の改変もなく、スケールの大きさとか息詰まる緊張感とは無縁の演奏ですが、この曲のスタンダードと言えるまとまりの良い演奏だと思います。


ライプツチヒ放送交響楽団、ライプチヒ放送合唱団、
S:クーゼ、A:フライシュ、T:アプレック、Br:クラーマー  
   (録音日不明 )
モノラルのおそらく放送録音からのCD化です。残響多めの録音のため、幾分ソフトフォーカスの甘さの出た印象を持ちました。基本的なテンポ設定はスタジオ録音と大きな差はありませんが、第2楽章の第2主題ではホルンを加えていました。
第4楽章のア・ラ・マルチアの極端に遅いテンポは、同じオケを振ったアーベントロートと非常に良く似ていますが、アーベントロート盤のようなアクの強さはなく、聞き進んでいくとこれが自然のテンポなのだと思えてくるから不思議です。この部分から終結部までがこの演奏の最も優れた部分で、確信に満ちたテンポ運びには聴いていて、大きな感動を覚えました。独唱者も健闘していますが、4人のアンサンブル部分ではバリトンの音程が低めにぶら下がる傾向があり、合唱もスタジオ録音ほどの完成度はなく、粗さが目立ちました。

(2001.09.29)
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