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「第九を聴く」16 ドイツ正統派の指揮者たち ローターとシュヒター
今回は、現在ほとんど忘れられてしまった二人のドイツ系指揮者です。
二人とも今まで紹介してきた指揮者のような強烈な個性といったものがない、ローカルな指揮者たちです。
カラヤンの初来日時にベルリンフィルの副指揮者として来日し、その後N響の常任指揮者としてアンサンブルを飛躍的に引き上げた名トレーナーのシュヒター、第2次世界大戦前後の困難な時期に、ベルリンドイツオペラの音楽総監督として、ベルリンの音楽界で重要な役割を果したローターなど、縁の下の力持ち的な存在の指揮者の手堅い芸風の指揮者たちですが、第九はなかなか面白い演奏を残しています。

  アルトゥール・ローター(1885〜1972)

ドイツのシュッテン生まれで、ワーグナーと直接関係の深かったハンス・リヒターやモットルといった歴史的な指揮者の下でバイロイト音楽祭のアシスタントを務め、後にデッサウ市立歌劇場、ベルリン・ドイツオペラの音楽監督。ベルリン放送響の音楽監督。
録音の多くはオペラ、協奏曲や歌曲の伴奏が主で、純粋な器楽曲の録音はほとんどない状況ですが、かつてステレオ初期に出ていたドイツ歌劇名序曲集、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」組曲といった録音は、手慣れたベテランの味わいで捨て難い良さがありました。またナチスの開発したマグネトフォンに、1944年ピアニストのギーゼキングとともに録音したベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の録音は、史上初のステレオ録音として知られています。

  ハンブルク交響楽団、ハンブルク・アカデミー合唱団
S:ランク、A:イロシュヴァイ、T:ガイスラー、Bs:クラス

他のローターの演奏からは、想像もできない大胆な演奏でした。第2楽章までは、
バランスの良い堅実な演奏で、第2楽章の第2主題のホルン追加もない演奏ですが、
第3楽章では一転してヴィヴラートをたっぷりとかけたヴァイオリンが情緒纏綿と歌う
ロマンティックな演奏に早替わり。第4楽章では、冒頭からゴリゴリとしたアクセント
で聞き手を驚かせ、190小節めでは木管に重なったホルンの咆哮にまたビックリ。
後半部分も、譜面にないテインパニの猛烈なクレッシェンドと乱打の連続に呆然として
しまいました。合唱も盛り上がっていますが、バランスの悪さは、いかんともし難い出来、
独唱者の中ではバスに問題がありそうです。

ウイルヘルム・シュヒター(1911〜1974)

ボン生まれ、ハンブルクの北西ドイツ放送響、ケルンの北西ドイツフィルの指揮者。
カラヤンとともにベルリンフィルを率いて来日した事もあります。
最後はドルトムント歌劇場の音楽監督。N響の常任指揮者としてN響を徹底的にしごいた名トレーナー。録音はモノラル期に通俗名曲の録音が数多くありましたが、今では全く忘れ去られていて、CDはN響を振った黛敏郎の涅槃交響曲という、およそシュヒターの芸風からかけ離れた録音がある(あった)のみです。
N響常任時代のシュヒターは、徹底した完璧主義者で練習が厳格なことで有名でした。
放送用録音の収録の際は、楽員がうんざりするほど同じ箇所を何度も何度も繰り返し演奏させ、その中から出来の良い部分のみを編集して放送するといった徹底ぶりだったそうです。

 北ドイツ交響楽団、北ドイツ歌劇場合唱団
S:モンティ、A:ロスニー、T:ギューデン、Bs:アンスバッヒャー

この録音のオケの正体は今一つはっきりしません。奇を衒わない堅実な演奏で演奏そのものは悪くないです。おそめのテンポの温かな演奏。
第1楽章は堂々としていて、なかなか聴かせます。オーケストレーションにも金管を中心にかなり手が入っていて、クライマックスでは大きな盛り上がりを演出します。
第2楽章はいささか鈍重。第3、第4楽章もごく平均的な出来で、ここで独唱に人を得れば面白い演奏になったのですが、いささかルーティンな合唱団とともに、魅力の薄い演奏となってしまいました。
一部録音の編集が見えすぎて、突然響きが変わる箇所があり、興を削がれる部分がありました。シュヒターが細部にこだわりを見せた演奏ではありますが、初めの緊張感が持続しないで終わってしまった印象を持ちました。
(2001.10.17)
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